新婚の夫婦が寝床を共にしている。
妻が囁く。「ねえ、貴方。私たち、夫婦の間では一切、嘘をつかないようにしましょうね」
妻の髪を撫でていた夫は、その言葉にどう返すべきか迷うように手を開いたり閉じたりしたが、やがて「うん、そうしよう。僕は君に嘘をつかない、だから君も僕に嘘をつかないでくれ」と小さく言った。
「ええ」妻は顔を傾けて、夫に笑顔を見せた。「ところで貴方。今日、貴方が式場でお喋りしていた女性、あの方に私、見覚えがないんですけどお友達?」
夫は目を背けた。「そうだけど、それがどうかしたの? ……それより、君。この前、銀行の通帳を見たら五十万ほど引き落とされていたんだけど、あれはどういうことだい」
妻は答えなかった。しばらくの間、寝室を沈黙が支配していたが、やがて妻は寝台を下りると手早く服を身につけて、部屋を出て行った。そして二度と帰ってこなかった。
寝台に残った夫は、名残惜しそうに妻の消えた扉を見ていたが、彼女がもう帰ってこないことを悟るとサイドテーブルの上の携帯電話を手に取った。まず、弁護士に電話を掛け、次いで隣の部屋で予約を取っているはずの女性に電話を掛けた。数分後、ノックの音がして……。