
- 作者: 森博嗣
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2004/09/10
- メディア: 新書
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森博嗣の詩的さを気に入っているファンとしては、Vシリーズに輪を掛けて薄くなったと言わざるを得ない。ミステリ的にも事件は、ひとつしか起こらないし、推理の大半が証拠を介されたものではなく空想上のものであるし、探偵役の海月及介は事件解決の直前まで徹頭徹尾、沈黙を守っている。したがって解決編はわりと唐突に与えられることになる(真相事態は甘く、推測は容易い)。――それにしても薄い。薄い小説が端的にどういう本であるかと言うと、読後に感想が殆ど残らない本である。本書に際して言えば、主役級の三人を紹介するための本であるとか、西之園萌絵ファンへのサービスであるとか、国枝桃子ファンへのサービスであるとか(自分はS&Mシリーズでは国枝桃子が一番好き)、もうキャラクタに注目するしかないのだ。とは言え、薄いというのは逆説的に洗練されていることの証拠でもあり、森博嗣色が意識して抑えられた本書は、理系ミステリという幻想を食わず嫌いする読者であっても読むに堪えうるものだろう。