雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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ワシントンの桜他 浅暮三文B級掌編集

http://www.so-net.ne.jp/e-novels/nov/a003/a0030001.html

 いやあ、笑った笑った。これは面白い。計八編の掌編からなる掌編集なのだけれど、そのいずれも不条理だったり、俗っぽかったり、くだらなかったりして、妙に面白くて笑ってしまうのだ。全く、我ながら馬鹿馬鹿しいなと思いつつも、それでも読むのを止められない。何だかよく分からないが、とにかく最高なのだ。
「海驢の番」海驢はアシカと読む。これは訳が分からない、のだがそこがまたいい。海驢の番というのは他の海驢が休息を取っている間、一匹だけ起きて見張り番をする海驢のことである。では、その海驢が起きてしっかりと見張りをしている海驢がいるのではないか。不思議な妄念に取り付かれた男の物語。
「貰ったけれど」これは幾つかの御伽噺や昔話を、くだらなくリミックスしたもの。玉手箱を貰ったけれど、蓋が開かなかったので開けなかった浦島太郎の物語。トロイの木馬を送ったけれど、入口が開かなくて奇襲することができなかった兵士たちの物語。雀のツヅラを貰ったけれど開かなかった老夫婦の物語。くだらねえ。
「砂子」これはエロい。鳥取砂丘に鳴き砂という、踏むとキュッキュッと音を立てる砂があるらしい。鳴き砂を見物にいった男は、そこで喘ぎ声を上げる砂を見つけ……。
「ワシントンの桜」これも俗っぽい。途中まで不条理系で、最後になってワシントンが桜の木を切った本当の理由が明かされるんだが……そんな理由かよっ!
「ベートーベンは耳が遠い」かなり最初のうちから結末が予想できるが、やはり面白い。ベートーベン、アホだなあ。
「黄金の果実」これも不条理系か。御伽噺風なのだけれど、いくらなんでもロシアでバナナ栽培ってどうよ。ああ、くだらねえくだらねえ。
箴言」新宿の下落合にあるアパートには、ソクラテスプラトンキルケゴールニーチェが逗留しているという。もう初っ端から訳が分からない。そしてアルサロに行ってソクラテスの名を騙ったり、行列のできるラーメン屋を探しているプラトンがあまりに情けない。そんな理由で残された箴言かよ。
「生徒」最後に持ってこられたのは、わりと堅実なショートショート。浅暮らしいブラックさが映える(主人公の名前はそのまんまブラッキー。……この名前は『カニスの血を継ぐ』のカバー折り返しに出てきた犬じゃないか!)珠玉の一編。途中まで訳が分からないのだが、ラストでなるほどと膝を打って、そのブラックさに震えられる一作。
 全体としてもうとにかくくだらない。こんな馬鹿っぽいの、浅暮でしか真面目に書かないだろう、そしてe-novelsでしか読めないだろうと。ショートショート好きであれば、是非とも一度は読んでもらいたい。