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目を擦る女

目を擦る女 (ハヤカワ文庫JA)

目を擦る女 (ハヤカワ文庫JA)

 とうとう小林泰三がハヤカワ文庫に進出した。もうホラー作家としては勿論、SF作家としても完全に認められたのだろう――と言うのが、本書を手に取った瞬間の感想である。しかし実際に読み出して落胆した。なんと言うか、薄いのだ。確かに語り出しや設定は、何処までも小林泰三なのだけれど、結末があまりに弱すぎる。標題作になっている「目を擦る女」は標題作であるにも関わらず、平均的な小林泰三の上に『奇憶』とネタが少なからず被っているし、続く「超限探偵Σ」は『密室・殺人』に比べると数段も落ちるし、「脳喰い」もありきたり。最初の三編を読んで駄目だと思った。同じく、雑誌に掲載された短編を集めた『海を見る人』と比較するとレベルがあまりに落ちている。酷い。――が、不思議とそれ以降は面白いのだ。以下、雑感。
「目を擦る女」前述の通り、標題作であるにも関わらずつまらない。とは言え、小林泰三という作家を、過不足なく現している作家でもある。ぬめりを演出し微妙にミステリさせ、クトゥルー分が足らなくはあるが、堅実にらしさは作っている。しかしファンには少し足りないし、初心者には唐突過ぎて駄目……どうしてこんなのが標題作なのだろう。
「超限探偵Σ」期待外れ。初出が『SFバカ本 天然パラダイス篇』であるのには、真っ当なメタ小説であるだけに首を捻る。最初からメタであることを意識し、きっちり二段構えで仕掛けてきてくれている点は好感。でも『密室・殺人』に比べると弱いんだよなあ。
「脳喰い」今ひとつ。これに関しては、もうとにかく今ひとつと言わざるを得ない。名前は忘れたが『海を見る人』にかなり似た設定の小説があったし、もうそれのデッドコピィにしか読めなかった。
「空からの風が止む時」ここから本書は本領を発揮する。今までの作品と微妙にリンクしつつも、しっかり