雲上四季〜謎ときどきボドゲ〜

本と涙と謎解きと、愛しさと切なさとボードゲームと

空中ブランコ

空中ブランコ

空中ブランコ

 第131回直木賞受賞作ということで読んでみた。連作短編『イン・ザ・プール』の正統な続編で、相変わらず変わりのないパターンであるが、そこがまたいい。『イン・ザ・プール』で予習済みであるので、望んでいたものと読めたものが殆どずれることもなく、過不足楽しむことができた。以下雑感。
空中ブランコ」標題作。ベテランでリーダーを務めつづけていた主人公がある日、ブランコで飛べなくなってしまったというもの。作中に“坊主の雑巾がけ”という名称が出てきたが、実際に何人ものプロが同じように苦しんでいるらしい。非常に完成度が高く、素晴らしかった。
ハリネズミ」尖端恐怖症に罹ってしまったヤクザが主人公。非常によく雰囲気が出ていて面白かった。
「養父のヅラ」これは今ひとつという具合か。人前で大それたことをやりたくて仕方がない男が主人公なのだが、地位も名誉もある養父のヅラを取りたくて堪らなくなってしまう。設定は面白いのだけれど、今ひとつ活かしきれていないような。
「ホットコーナー」一塁にボールが投げられなくなり、意識し始めるとボールをコントロールするのも、バットを振るうのも、歩くことすらできなくなってしまった主人公の話。根っからの天才で一度も苦労したことがない人間が、基本に立ち返ろうとして、自分は基本をしっかりやっていなかったことに気付いて愕然とするというのが面白いと思った。
「女流作家」これは傑作、非常に素晴らしい。売れる作品を出しつづけていた女性作家が、一度だけ渾身の力を込めて名作を書いたが、これがまるで売れなかった。以来、本気を出すことをやめ、ぽつぽつと売れる作品を書いていたが、やがてそれさえも書けず……というもの。終盤、フリーの編集者で彼女の友人が、激を飛ばすシーンがあるのだが、創作を志す人間で、この言葉に魂を震わせない人間はいない。それほどの迫力と気迫が込められていた。さらに、最後の最後で今までずっと脱力系のアンチ癒しを読者に提供していた看護婦のマユミが信じられないような科白を言うのだ。いや、さすがにこれは作者狙っているだろうと思うが、それでも感動させられてしまった。いや、良かった。最後の最後に期待を上回る変化球を投げられると、とても嬉しい。