雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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木曜日祭典

 文学フリマの打ち上げで「どんな音楽聴くの?」と聞いた前Qさんに秋山は、バンプやポルノと答えた。以前、松が「どんな音楽を聴くかでその人の在り方が分かる」と言っていた。そんなもんなのかなと思いつつ、まあ、確かに「坂本真綾とか片霧烈火が好きです」と言われれば「ああ、そういう人なのね」とすぐ分かるかもしれない。そんな秋山が最近、気になっているのは荘野ジュリ。全然、売れなかったと思われる『駅ニテ』はもうとにかく傑作で、昨日『カゲロウ|うたかた』を借りてきた。で、最初のワンフレーズを耳にした瞬間、思った。
 だめだなあ。
 何て言うか、荘野ジュリってダメッ子なイメージがある。大学には出てこないで、一日中、水しか飲んでなさそうな。本やCDを貸しても返ってこなくて、部屋とか凄いきたなくて。まあ、実際にそうとは限らないだろうけれど。けれど凄い怠惰で堕落的でときに幻惑的な雰囲気が漂っている。それがとても魅力。
 さて、今日はいよいよ『ヘリオテロリズム』*1

いづる「ドラウナーズ」完成度の高い純文学のように思えた。『文学界』とか『群像』に応募したらいかがです。じぇいくが存在しなかったり、妄想上の人物だとしたら嫌だなあと思っていたら、そんなことはなくミステリ的な仕掛けまで放っていて、最後はきれいに締めていて、ある種の物足りなさをも感じさせるそれは、とても純文学っぽいと感じた。
西東ノブ「ヒット・パレード98-89」自分向きの小説ではないと強く感じた。ひとつは文章の相性が悪いのか、読んでいてもまるで頭に入ってこない。もうひとつは、作中で取り上げられている歌の殆どが分からず、本来は絶妙であるのだろうボケやツッコミが全く意味を為さなかった。読者を選ぶ作品なのだろうと思う、人によっては傑作なのかもしれない。
秋山真琴「メタ探偵の憂鬱」拙作。いわゆる「作者がやりたかったこと」というのを知っている秋山としては(作者なのだから当然である)、この作品の不完全性を認めざるをえない。きっと若いから、こんな矛盾を自分自身に許すことが出来るのだろう。けれどもし読者に対しフェアにやろうと、そして読み込めば真相が浮かび上がってくるように計算を重ねれば、この作品は凄まじいものになるだろう。何にせよ作者の今後に期待したい。って、だから自分だよ。
根子「スライド」とても好き。ずれるというのが文学的な意味ではなく、実際にずれるのだと分かった途端、俄然、面白みが増した。そして最後のページの儚さ、どうやったらここまでさらりと哀愁を漂わせられるのだろう。素敵すぎる。傑作。
松本楽志「時刻表」間違った世界の終わり、憂えるかたちでの終焉、悪夢でない悪夢。空の時刻表、突き落とす、過ぎ去った電車。パターン化されることによって生まれる焦燥感、折角なら背中を蹴らせればいいのに思ったけれど、蹴るのではなく手で押すところががくしさんなのだと気付いた。なるほどなあ。安易には流されないのか、格好いい。
丼原ザ★ボン「百億の秋に、千億の愛を」まず最初に言いたいのは、「おぎゃ鴉。」ではページの最後で段落がきれいに、京極夏彦のように、清涼院流水のように、区切れていたというのに今回はそういうのがまるでなし。これで本当にいいのーザボンさん! まあ、それはどうでもいいとして、非常にリーダビリティが高かった。特に第四節からその終わりに掛けて、怒涛の二重括弧というか、あんなに単語ばかりが列なっているのにどうして読みやすいのか不思議でならない。これが天性の才能か。
曽良圭「輪唱ラヴソング」えーあーうわー! なんじゃこりゃー!! すげえ。第二節の途中ぐらいで、どういう構造になっているのか分かって「上手いな、やるな」と思っていたけれど、最後の最後にまさかこんな展開になるとは。言わば、大暴投でデッドボールになるところをバットを放り捨てて拳でホームランみたいな。俺が最強だ! 訳わかんねえ。
近田鳶迩「キセキ」清く正しくスマートで、それでいてファンシィな短編。奇跡といういかにもな題材を取り扱いながら、ドラえもんなんていう取り扱い注意なキーワードを出しつつも端正に纏め上げているのが素晴らしかった。
鈴木知友「落し物を届けに行こう」雰囲気としてはミステリーランドに近いと思った。もうとにかく最後の数ページが最高過ぎる。何とも言えない喪失感や、憧憬、淡い希望、もどかしさがとても素敵。ああ、いい話だなあ、と。
全体を通して、「ドラウナーズ」や「メタ探偵の憂鬱」に見受けられた“先生”という呼称、「スライド」や「時刻表」に見受けられた“友人K”の存在がなんとなく夏目漱石『こころ』を連想。夕賀恋史や空蝉速人といったいかにも探偵が、意外に少なかった。『もえかん』と比較して対象とする読者の年齢層が上がっているような気がする。全部の作品の頭に【小説】ってあったけれど、【評論】や【詩歌】があるわけではないので、省略しても良かったのではないだろうか。後、皆とても上手い。誉め言葉が見つからないぐらい酷い作品があったらどうしようだなんて、不謹慎なことを考えていたのだけれど、全然そんなことはなく、むしろ秋山の手の抜きっぷりが一番最悪で最低だと思った。次はリベンジだ。え、次あるの? え、次ないの? ない訳ないでしょ。