雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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踝祐吾『酔待寓話』

もしかするとそれは、
――夢のような十一夜。

『EquaL−迷宮の国のアリス−』の踝祐吾による短編集、その第二弾。岩手大学SF研究会が発行している会誌掲載作や、ジュヴナイルステークス参加作などから構成されている。昨年の夏コミの後、素材屋で元さん上京オフの際に買わせていただいた。読んだのは11月頃。遅すぎ。
「極北グランドライン」二十一世紀最後の年を駆け抜けた冒険家を描いたもの。カバーの折り返しが森博嗣っぽかったので、このタイトルも恋何とかという短編にあやかっているのかなと思ったらその通りだった。
「未来型西部劇」これも近未来物。先にテーマを知ってしまうと落ちが読めてしまうという微笑ましい短編。秋山はこういうのがわりと好き。
「何も見なかった」これはしっかりと計算して読めばそれなりに面白く読めるのかもしれないと思った。読者に読解を求めるタイプの小説で、秋山はそういうのが苦手なので恐らく正当には評価できていない。
「水中落下都市」僅か三ページの掌編、恐らく秋山がこの短編集で一番、好きなのはこれかな。評価してやろうという姿勢で作品を読むとき、最も重視するのは書き出し。と言うのも、その作品が面白い面白くないを別にして、書き出しに力を入れている作者は、本気だからである。この作品はわりと本気に近い。
「君が笑ってくれるなら僕は悪にでもなる」「星霜夜話」この二編は、どうも手癖で書かれた感じ。どうもなあ。
「幻楼であるように」とても面白い。いや、倒錯系ミステリだよ。『匣の中の失楽』だよ。
「君ト居タ未来ノ為ニ」裏表紙にあらすじが掲載されているけれど、とても魅力的なストーリィを持っている。そもそも「明治三十四年」というフレーズが強い。それだけで勝ったような作品、ずるいぜ。
「灰色の空、あるいは僕」これも手癖。
「北謳の七つくらいの迷宮」凄い可能性を持っているような気がするのに、メタな理由で*1で早々に終わってしまって残念。これで本当に七つの迷宮をやってくれたら、かなり面白く出来上がったのではないだろうか。
「酔待寓話」標題作、スマートに決まってる。
 全体的に雰囲気を重視したものが多く、受ける人には受けるけど、受けない人には受けないと思った(当たり前だ)。踝さんがジュヴナイルステークスでどんな位置にいるのかは全く知らないのだけれど、なんかそれほど人気はないようなイメージがある。虐げられていると言う訳でも、無視されていると言う訳でもないけど、何かスルーされているような。その理由は、つまり、何と言うか地味に上手いからではないだろうか。秋山はやる気がないけど決めてくる人よりも、やる気はあっても空回りしているような人が好きなので*2、垢抜けない作品は、どうもなあと思う。

*1:別名、作者の都合

*2:はい、すいません。嘘を吐きました