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ゴーレムの檻 (カッパノベルス)

ゴーレムの檻 (カッパノベルス)

 本格ミステリベストにランクインしていて、かつ手元にあったので早速、読んでみたところ、大感激した。これは、たいへん素晴らしい。積みの中では比較的、優先順位が低く、本ミスに入っていなければ、当分、読まなかっただろう。素直に感謝したい。
 サブタイトルにある通り、本書はお茶が趣味の宇佐見博士を主人公とした連作短編集である。絵画を鑑賞していたところ、その絵画の中の世界に迷い込んでしまったり、お茶を飲んでいたら時を四百年ほど遡り、ある男の精神と同化してしまったり、著者の想像力は尽きるところがない。だからと言って、本書をファンタジィと表現することはあまりに不可能だ。あらゆる可能性を模索し、端から潰してゆく推理。お茶を飲みながら、話を聞くだけで、真相を看破してしまう鋭い論理。どこまでも忠実に、己を律するように、本書は本格ミステリなのだ。まったく、恐れ入った。森博嗣の持つ詩的さと奥泉光の持つ余裕を兼ね備えた上でのミステリとでも言うのだろうか。本当の本当に素晴らしい、この世にこんなにも幻想的なミステリがありうるのかと感動した。傑作。
 蛇足ながら、もう少し付け加えておこう。人によっては最初の三作は難易度を高く感じ、途中で投げてしまうかもしれない。硬質な文章が苦手な人は、表題作になっている「ゴーレムの檻」と「太陽殿のイシス(ゴーレムの檻 現代版)」を続けて読んでもらいたい。他三作に比べ若干、分かりやすく、作品を包む幻想もより詩的で素晴らしいからだ。
 それにしても192ページの演出が憎い。素晴らしすぎるではないか。