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限りなく透明に近いブルー (講談社文庫)

限りなく透明に近いブルー (講談社文庫)

 昨年末に読んだ『インディヴィジュアル・プロジェクション』に続き「秋山のような読み手ならば絶対に通過していないと駄目だろう」と自分でも思う本書を読んだ。村上龍を読むのは六年ぶりぐらいで、中学生のときに『愛と幻想のファシズム』を読んだことがある。『限りなく透明に近いブルー』は後に様々な賞と話題をかっさらう村上龍のデビュー作、群像新人賞受賞作にして芥川賞受賞作でもある。それなりに気負った状態で読み進めてみた。
 読みながら思ったのは、麻薬や性を書いた作品であるのに暴力性が少ないということ。あるいは希薄な現実感と言い換えてもいいかもしれない。腐臭や血生臭さなどが紙面からにおってきてもおかしくないのに、何か違うのだ。淡々と事実だけを描写しているようで、迫るものが感じられなかった。最たるは主人公が口の中に射精されるシーン。秋山だったら絶対に避けたい状況であるがしかし、主人公は抵抗しつつもその状況自体を受け入れてしまうのだ。まるで主人公自身、今まさに口腔に射精されているのが自分のことだとは自覚していないようでさえある。この剥離している感が、文章全体を何となく異質なものに変えている。読了後、解説を読むと上をもう少し具体的にしたものが書かれていて納得。思っていたより面白かったと言える。