雲上四季〜謎ときどきボドゲ〜

本と涙と謎解きと、愛しさと切なさとボードゲームと

『壜の中の手記』

壜の中の手記壜の中の手記
ジェラルド カーシュ Gerald Kersh 西崎 憲

角川書店 2006-11
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asin:4042961010
 主人公がメキシコ中南部で、ある行商人から購入したオショショコの壜には、古文書が押し込まれていた。その正体を知るべく、大英博物館を訪ねた主人公はそれが、辛辣な口調と怪談めいた短編小説で知られるアメリカ作家、アンブローズ・ビアスの最後の文書であることを知った……。
 晶文社ミステリの一冊として刊行された短編集。解説の西崎憲曰く「作風ももちろん幅があるし、ジャンルも多岐に渡っている。ミステリ、サイエンス・フィクション怪奇小説。しかし一言でカーシュの書く物を言い表すとしたら『綺譚』の語が相応しいであろう」とのことだが、確かに本書はいわゆる殺人事件や不可解な謎を取り扱ったミステリではなく、奇妙な出来事を描いたミステリと言えるだろう。特に佐藤友哉が「地獄の島の女王」を書いた際に参考にしたと思われる「豚の島の女王」は、みごとな幻想小説だった(無人島に漂着した、四肢を持たない女王と、巨人と小人の物語である)。
 表題作の「壜の中の手記」も面白かった。アンブローズ・ビアスというのは、メキシコで失踪した実在する作家であり、この作品では「彼がどうして失踪することになったのか」その顛末を描いているのだが、その切り口がまた絶妙なのだ。だって「オショショコの壜とはいったい何なのか?」という謎を巡っている最中に、英米文学史における謎であるアンブローズ・ビアスの失踪事件が、かんたんに解決されてしまっているのだ。その扱いの軽さにセンスが感じられる。奇想コレクションを読み終えてしまい、ほかに読むものを探しているひとに勧めたい。