雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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インシテミルから始めるクローズド・サークル・ブックガイド

 米澤穂信インシテミルがたいへん面白かったです。ただ、この作品。サスペンスとしては予備知識が皆無でも楽しめるのですが、ミステリとしては先行作品を知っていないと十全には楽しめないのではないかなあ……という疑問があります。と言うのも、すでに読まれた方ならお気づきでしょうが、この作品では推理すること/解決することが、従来のミステリからやや外れているのです。ゆえに、その規格外っぷりを楽しむには、やはり規格を知っている必要があるでしょう*1

インシテミル

インシテミル

 と言うわけで、米澤穂信インシテミル』をもっと楽しむためにクローズド・サークル・ブックガイド、です。


 まずは、クローズド・サークルの代表とも言うべき、アガサ・クリスティそして誰もいなくなったから。作中にも登場したこの作品は、絶海の孤島を10人の男女が訪れるのですが、これが次々と死んでいってしまうというものです。当然、常識的に考えれば最後に残った1人が犯人なのですが、その最後の1人でさえタイトルが指し示すように、何者かに殺されてしまいます。では犯人は誰? というところがミステリ。
 クリスティは他に、フー・ダニットの代表オリエント急行の殺人』、○○トリックの代表アクロイド殺しミッシング・リンクの代表ABC殺人事件と、ガジェットを代表する作品をいくつも手がけています。この4作を抑えておけば、ミステリの潮流が少し、見やすくなるかもしれません。

そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

 続いては日本におけるクローズド・サークルの代表を紹介します、綾辻行人十角館の殺人です。
 本書の刊行、もしくは綾辻行人のデビューに新本格ブームが端を発すると言われるように、新本格という言葉を説明する際に取り上げられることの多い作品でもあり、現代の国内ミステリにおいては島田荘司占星術殺人事件と肩を並べうる金字塔的作品でしょう。
 無人島に渡った7人の推理小説研究会のメンバが、次々と何者かに殺されて命を落としていくという孤島の面白味と、奇妙な特徴を持つ館の面白味を合わせ持つ傑作です。
十角館の殺人 (講談社文庫)

十角館の殺人 (講談社文庫)

 ここで若干、ミステリから離れて、サスペンス色が強い貴志祐介『クリムゾンの迷宮』に目を向けてみましょう。
 こちらは火星……という設定のオーストラリアの某所を舞台としたゼロサム・ゲームです。突然、ゲームに巻き込まれてしまった9人が、4つのグループに分かれ、それぞれに戦うというサスペンスです。館のような閉鎖空間ではなく、見渡す限りの荒野という開けた空間が舞台ですが、原則として9人しか登場しないのでクローズド・サークルの亜種と捉えられるでしょう。ミステリ分は薄めで、その分、手に汗を握る緊迫感のあるシーンが多めです。『インシテミル』の前半、誰が殺人犯か分からない状態でドキドキしながら読み進めた方に、特にお勧めです。
クリムゾンの迷宮

クリムゾンの迷宮

 ついでに矢野龍王極限推理コロシアムも紹介しておきましょう。
 第30回メフィスト賞受賞作品である本書は、夏の館と冬の館という、ふたつの館に閉じ込められた計14人の男女が、それぞれの館で繰り広げられる殺人を食い止めるために推理するというミステリです。登場人物の造形が今ひとつであったり、解決が実にあっさりしたものであるなど瑕疵は多いのですが、気楽に読めるエンターテイメントとしては、そう悪くもない作品です。
極限推理コロシアム (講談社ノベルス)

極限推理コロシアム (講談社ノベルス)

 最後に紹介させていただきますのは三津田信三『シェルター 終末の殺人』です。
 舞台は地下に埋められた核シェルター。シェルター見学に来ていた6人の男女が、その内部を覗き込もうとした瞬間に、空を閃光が走り慌ててシェルター内に逃げこむという場面から物語は始まります。果たして外のせかいは核で滅びてしまったのか? 自分たちは人類の生き残りなのか? そして、外界から完全に閉ざされたクローズド・サークル内で発生する殺人事件……。インシテミルと同じく本書もクローズド・サークル物としては亜流に位置づけられます。また、鬼のように敷いておいた伏線を、最後に一気呵成に回収する様も似ていると言えるでしょう。『インシテミル』の解決編部分が気に入った方は、本書も楽しく読めると思われます。
シェルター 終末の殺人 (ミステリ・フロンティア)

シェルター 終末の殺人 (ミステリ・フロンティア)


 と言うわけで、5作ほど紹介させていただきました。どれも面白いですけれど、中でも特にお勧めなのは、やはり十角館の殺人『クリムゾンの迷宮』ですかね。今日のミステリはやはり新本格の流れから読むのが最適だと思います。綾辻行人十角館の殺人』から始め、名作と呼ばれる作品を現代へ向けて順々に読んでいけば、押しも押されぬミステリ読みになれますね。

やっぱり「SFベスト100」みたいなものを潰してく作業ってやりますよね。

http://d.hatena.ne.jp/MeiseiSF/20070901#1188582991

 これに倣うなら、新本格では探偵小説研究会本格ミステリ・クロニクル300』が最適な1冊でしょうね。300冊のなかには、ちょっと首を傾げないでもない作品も入っていますが、基本となる名作はほぼ網羅されています。ミステリ読みを目指している方は必携!

本格ミステリ・クロニクル300

本格ミステリ・クロニクル300


 関連エントリ:
ループ物リストリストとブックガイドの選定基準

*1:なんか西尾維新を彷彿とさせる言い回しですね。