文学フリマにて、ヴィンテージ・ミステリ・ブック・クラブが発行された『クラシック・ミステリのススメ 予告編』をいただきました*1。
杉江松恋が発起人を務めるヴィンテージ・ミステリ・ブック・クラブは、古典ミステリの愛好家によって構成され、『クラシック・ミステリのススメ』は約100冊の英米古典ミステリを紹介するブックガイドだそうです。文学フリマで配布された「予告編」は、100冊のうちの3冊が収録されたフリーペーパーで、A・E・W・メイスン『薔薇荘にて』、レオ・ブルース『骨と髪』、ヘレン・マクロイ『割れたひづめ』の3作を取り上げていました。
- 作者: A.E.W.メイスン,A.E.W. Mason,富塚由美
- 出版社/メーカー: 国書刊行会
- 発売日: 1995/05
- メディア: 単行本
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- 作者: レオブルース,Leo Bruce,小林晋
- 出版社/メーカー: 原書房
- 発売日: 2005/08
- メディア: 単行本
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- 作者: ヘレンマクロイ,Helen McCloy,好野理恵
- 出版社/メーカー: 国書刊行会
- 発売日: 2002/11
- メディア: 単行本
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・原作の発行日順に並んでいる。
・原作、著者名、題名、あらすじ、書誌情報といった必要最低限の情報の他に、著者の略歴が明快に記載されている。
・1作につき2人の評論家が書評を担当しているため、多角的に情報を取り入れることができる。
・「この本もオススメ」として、類似書籍も紹介している。
が挙げられると思います。特に、あらすじや著者の略歴がちゃんとしているかどうかは、この手のブックガイドにとってなくてはならない縁の下の力持ちだと思っていますので、明快に記載されていて非常に好印象でした。
ただ、その見せ方には、やや難があるように感じられました。と言うのも、上段に1人目の評論家の書評が、下段に2人目の評論家の書評があるのですが、読み始めた当初は「1作につき2人の評論家が書いている」という事態を想定していなかったので、最初の1作は上段の書評を読んでから、あらすじに目を通すことになりました。著者略歴を線で囲むなら、題名とあらすじなども線で囲んで良いのではと思います。また、上段と下段の書評の間にも、罫線を入れると分かりやすくなるように思います……が、実際にそうしたらごちゃごちゃしすぎになるような気もします。
完成版には評論家の読みどころが書かれた自己紹介が欲しいなと思いました。せっかく1作につき2人の書評を掲載しているので、事前に各々がどういった姿勢で小説を読んでいるのだとか、どういう点を高く評価するのかと言った情報があれば、もっと楽しく読むことが出来そうです。
完成版の頒布は冬コミを予定されているそうです。また、MYSCONでも頒布されるそうです。楽しみです。
ちなみに予告編で取り上げられた3作のなかでは、ヘレン・マクロイ『割れたひづめ』が面白そうだなと感じました。
小説に意味ありげな子供たちが出てくるとなると、彼らはありがちな邪悪極まりない「恐るべき子供たち」なのかと思われるかもしれない。しかし、彼らは完全なる無垢な存在でも、とことん邪悪な存在でもない。彼らの中には、根拠のない全能感と、未来へのとらどころのない不安が同居している。そう、本書を手に取るようなミステリファンの多くにとって身近な存在が本書における子供たちなのだ。
と、ジャン・コクトーをさりげなく引用しているあたりに興味を覚えました。
追記(11月13日)
上記エントリにやや誤りがありました。参加者のひとりでもある、id:Wandererさんが補足を書かれていました。
『クラシック・ミステリのススメ』は、以下の叢書の全冊レビューをおこなう同人誌です。決してクラシック・ミステリを無作為抽出してレビューする企画では(現時点では)ありませんので、ご注意ください。
http://d.hatena.ne.jp/Wanderer/20071113
とのことです。後、上下巻構成だったことも初めて知り、驚きました。
「そうだったのか!」と思いつつ、改めて「予告編」の表紙に記載されている杉江松恋の言葉に目を向けると……、
複数の版元から、すでに200冊余が刊行されています。
とありました。上巻という文字を読み逃していたので、てっきり200冊のなかから、特に優れている*2100冊の紹介を行うものだと思ったのですが、文字通り200冊すべてを網羅されるみたいですね。
後、掲載順に関してですが、
見本版で3作が発表年順に並んだのは今回のみであり、実際には、叢書内における通し番号順で並べる予定であります。
http://d.hatena.ne.jp/Wanderer/20071113
とのことだそうです。
こちらは個人的には、やや残念です。と言うのも「予告編」のA・E・W・メイスン『薔薇荘にて』の書評に、以下のようなくだりがあって、
ただ、そうした長編ミステリとしての構造が、《真相が明らかになったのち、読者の感情を納得させようとする》黎明期の作品(例えば、事件の背景を物語り始めるドイルの諸長編)と、《真相呈示後はひたすら読者の理性を納得させようとする》黄金時代の作品との、ちょうど橋渡しをする形になっているのは、興味深い点です。長編ミステリの技術的変遷を論じるうえで、本書は軽視できない一冊でしょう。
ここを読んだ秋山は「予告編」で取り上げられている3冊が、原作の発行年順に並んでいることに気づき、『クラシック・ミステリのススメ』というブックガイドそれ自体が黎明期から黄金時代を経て、それ以降へと続くミステリの歴史を踏まえたものだと思ったからです*3。
秋山は綾辻以降の国内本格の流れは、それなりに追えているのですが、それ以外はさっぱりで、知らないことが非常に多いです。背景知識を持っていないので、名作とされる古典ミステリを読んでも、その時代のミステリとして認識することができず、たとえばトリックのみであるとか、文章のみであるとかでしか評価することができません*4。なので、ブックガイドというかたちでミステリの歴史を教えてくれるという点において『本格ミステリ・フラッシュバック』と肩を並べ、楽しみだったのですが……まあ、でも、叢書の全冊レビューというのもいいですよね。
藤原編集室が好きなので上巻の《世界探偵小説全集》《ミステリーの本棚》、下巻の《翔泳社ミステリ》《晶文社ミステリ》《KAWADE MYSTERY》の書評は重宝しそうです。