雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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ポプラビーチ『週刊てのひら怪談』第25回〜第37回感想

 ポプラ社が発信している、毎日どこかが更新されるWebマガジンポプラビーチ。そのコーナのひとつに、週刊てのひら怪談というのがあります。今のところ第49回まで続いているこのコーナですが、第1回から第37回までは『てのひら怪談』に掲載された作家が、それぞれ「渾身の一作」として編集部に送ったものから構成され、第38回から第49回までは「西荻シリーズ」と称して、西荻てのひら怪談に投稿されたものから構成されています。現在は『てのひら怪談2』に掲載された作家による「渾身の一作」を、年明けからパート3にして疾風怒濤篇として毎週更新できるように準備を進めているようです。ここまで昨日のコピペです、手抜きエントリですみません。
 疾風怒濤篇の前祝、というわけでもないのですが、渾身の一作パート2にして春の陣に相当する、第25回から第37回までの感想を書きました。例の如くネタバレに対する配慮は、あまりしていません。後、著者名とタイトルは、てのひらのうらに掲載されていたリストをそのまま利用させていただきました。
 長いので、続きを読むのなかに入れておきますね。

ヒモロギヒロシ『狐狸夢中』

 これは快作ですね、実に素晴らしいです。もう一文目から笑いの気配が漂っていて、機動畜獣メカダヌキのあたりで「ああ、やっぱりギャグだ」と拳を握り締めました。そして忍法帖もかくやという展開には、笑いを堪えることができず、始終、笑いながら読むことが出来ました。たいへん面白かったのですが、その分、ラスト三行には首を傾げました。黒鹿毛というのは馬という第三勢力のことかしらん。

君島彗是『霊廟に赤い雫を』

 なんという幻想、なんという傑作。参拝者の血液によって作られる巫女、戦争、火の鳥……一段落目から最高に面白くて、続く二段落目で物語がまったく減速することなく、むしろ加速し、展開し、その調子で最後まで息を飲んだまま読むことになりました。君島彗是はほんとうにどれを読んでも面白いですね、感想を書くのに言葉を選ばないといけないことがありません。天才。

雨川アメ『柘榴』

 漢字が多くて、読点が少ないです。物語それ自体は悪くないと思います。キッチュな方向に走りつつ、最後は新たなせかいへと旅立ってゆくのを見ることができ、ちょっと展開は恒川光太郎に近いところがあるなと感じました。しかし、どうにも文章が肌に合いませんでした。読みながら、秋山だったらこの漢字は開くなだとか、ここに読点を打つなと思いながら読んでしまいました。申し訳ありません。

夢乃鳥子『水瓜』

 いぃぃやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!! 困ります、困りますよ、これは。恥ずかしながら、この秋山、もう半泣きですよ。本気で文章が上手いひとに、本気で怖い小説を書かれると、もう怖くて怖くて、ああ、もうスイカが食べられません! そして母の顔も直視できません! ああ、もう、どうしたものでしょうか、いったい……。

黒田広一郎『母の話』

 お、いい話ですね。こういう話は大好きです。文句なしに素晴らしい作品だと思いました。兄から弟への愛情もいいですが、父から母への愛情も良いですね。こういう家族が描かれている作品は、大好きです。そのためか、最後の一文は不要だと思っただけでなく、むしろ不自然さを出してしまっているなとも感じました。この主人公だったら、迷うことなく「今日、兄に会ったよ」と母に告げそうな気がするのですがね。

松音戸子『コツ』

 これは何だか今ひとつですね。コツの説明部分がいちばん光り輝いていて、その他の部分がややなおざりになっているように感じました。しかし、それにしてもいいお婆さんですね。小指や赤い糸といったステレオタイプなガジェットも、程よくロマンティシズムを生むのに買っていて、きれいに効果を発揮しているように思いました。ところで、とても長いの名前の画家ってピカソのことでしょうか……?

立花腑楽『月山幻夜

 お、これは巧みな一作ですね。果たして母は行きたかったのか、行きたくなかったのか。どちらとも読める作品ですね。二度ほど読み返してみて、どちらとも言えず、このどちらとも言えないのがこの作品の魅力なのだなという結論に達しました。文章も堂に入ったもので、物語も出来るとなると、実に芸達者ですね。羨ましい限りです。

白ひびき『鵺の啼く山』

 京極夏彦を彷彿とさせる難解な漢字の嵐。その試みは興味深いと思うのですが、残念ながらディスプレイで読むには適していない作品ですね。肝心の物語はと言うと、今ひとつでした。面白いころに挑戦しようとしているとは思うのですが、もう一歩か二歩ぐらい踏み込んでほしかったかなと思います。ストレートに怪談するには文章が読みにくかったです。

登木夏実『向こう側』

 おお、しみじみと怖かったです。仕掛け自体は途中で見抜いてしまい、それが正しいかどうか確認するように最後まで読みました。結末自体は読み通りでしたが、それでも最後の一文を読んだ瞬間には鳥肌が立ってしまいました。予想を裏切り、期待に応えるとはまさにこの作品のことでしょうか。良い作品だと思います、堪能させていただきました。

加楽幽明『海の思い出』

 良い奇想だと思いました。でも、題名がステレオタイプであることに加え、物語の不在が何とも言えず、勿体なかったです。文章力は充分ですし、描き出されている奇想も素晴らしいとは思うのですが、やはり最後まで読んで「だから何?」と首を傾げてしまうのですよね。もう少し捻ってあるか、物語があれば良かったように思います。

勝山海百合『貝殻』

 おお、なんといい話なのでしょう! 心に染み入る、いい文章だなあと、味わい深い語りを噛みしめていたら、予想もつかないところに着地し、思わず涙してしまいました。時を越えた色褪せない友情のなんと美しいことか、素敵な怪談だと思いました。しみじみと良い作品ですね。堪能させていただきました。

沢井良太『金平糖

 傑作。猫と妹には目のない秋山です、ましてやこの作品は一個の怪談として完成されています、傑作でないわけがありません。一文目を読んで「お」と思いました。体言止めの直後に前の文を説明する文。ぶつ切りの印象を読者に与える、アクの強い技術です。しかし、うまく処理されていて、洗練されている印象を受けました。その後の流れも、実に手馴れていて、ぎこちない箇所がまったく見受けられませんでした。余韻たっぷりの結末も好印象ですし、素晴らしかったです。

峯野嵐『登山競争』

 惜しい……! 実にいい作品です、素晴らしいです。しかし、と言うべきでしょうか、だからこそ細かい点が気になって仕方がありませんでした。下を向いていた主人公はいかにして前方からやってくる女を目視し得たのか(立ち止まった、の後にいきなり女の描写に入るのではなく、一度、周囲を見ます余裕が欲しかったです)そして、女がやってきた方角に逃げることには恐怖を覚えないのか、この二点が気になって仕方がありませんでした。ラストの処理も上手いし、純粋に好きな作品でもあります。良かったです。

平金魚『夜の女』

 お、いいですねー。女自体はぶっきらぼうで、あけすけな物言いから、確かに乱暴なイメージを受けるのですが、語り手による女の描写からは淫靡で妖艶なイメージを受けました。なにしろ、白い皮膚が、内側から蛍で光っているのですからね、幻惑的でもあります。いやあ、良かったです。堪能させていただきました。

黒史郎『世界旅行』

『夜は一緒に散歩しよ』を読み終えた直後に検索して、そのときに一度だけ読んでいましたが「今ひとつ」と感じたことを記憶しています。今回は二度目なのですが、脱力系の笑える怪談かな、と好意的に解釈できるように思えます。落ちが弱いので、もう一歩踏み込んでもらいたかったですが、中盤のスプラッタな展開は中々ですし、語り口も読みやすく悪くないように思います。

クジラマク『降臨』

 素晴らしい。思わず唸り声をあげざるをえない、堂に入った力作です、素晴らしい。何と言っても語り、これが最高にいいですね。そして、展開もまた良し。特にインターフォンが鳴るくだり。ここから一気に結末に雪崩れ込むのが、非常に心地よかったです。人間性や幻想性を感じられないので、秋山の好みではないのですが、ただただ激烈に上手いですね。にごるタイトルも素晴らしいですし、感服いたしました。

堀井沙由美『和菓子屋のおじいちゃん』

 ほほう。ラスト一行の超展開には、思わず目を剥きました。テンポは良いけれど、どうにも釈然としない、今ひとつピンと来ない怪談だなあと油断していたら、最後の最後でこれですからね。ものの見事に足元を掬われてしまいました。見事なお手並みでした。堪能させていただきました。

岩里藁人『のんきもの』

 お、いいですねー。自分はむしろ、「ど〜も〜」と挨拶にやってきたN君に好印象を覚えました。のんきものかもしれないし、せっちやさんかもしれません。でも、どちらにせよ主人公に会いに来たN君は、律儀でいい子ではないですか。怖い場面もありましたが、なんだかのんびりと落ち着いていて、にこにこ微笑みながら読める良い怪談でした。って実話か! こわーっ!

不狼児『光の子供、緑の記憶』

 ぎぎゃー! グロやめてー! もう泣きたいです。冷蔵庫の中で凍えた子どもや、消防斧というアイデアは素晴らしいと思いますが、それにしたって子どもの頭を斧でかち割るのはいかがなものかと!

杜地都『虫』

 上手い。しっとりとした、味わいのある、心地よい怪談ですね。それに洗練もされています。具体的には「はじまりが現実だったのかどうか、いまではもうわからない」この一文が、読者ひとりひとりに自由に想像させる余地を与えようとする、機能を持っているように思うのです。これによって以後の文章がすべてリアリティを帯び、最後には完全に主人公に感情移入し、同じような諦めを覚えました。良かったです。

斜斤『シャワータイム』

 これもまた、上手い作品ですね。やや漢字が多いかなと思い、ディスプレイで読むには向いていないなあと目をこすりながら読み進めたのですが、シャワーのシーンからはもう夢中でした。敬体の文章も、実に良い味を出していますし、主人公が衝撃を受けたシーンには鳥肌が立ちました。素晴らしかったと思います。どうでもいいですが、なんとなく『フリクリ』のアイロン工場を思い出しました。

井下尚紀『浴場にて』

 いっやぁぁぁぁぁぁ!!!!! 本日、二度目の絶叫です。もうほんとうに嫌です。こんなの読まされたらもうお風呂に入れなくなっちゃうじゃないですか。秋山、お風呂大好きなんですよ。今日も大掃除にかこつけて、新しく買ってきたスプレーとブラシでばっちり洗ったぐらいですし。もう内容は忘れました、忘れたことにします。でも、上手かったですよ。上手かったからこそ、こんなにも鳥肌が立っているのです。ああ、怖い怖い。

綾倉エリ『井戸の奥には』

 ほわあ……良かった、です。『浴場にて』の直後に読んでいなかったら、今ひとつだとか、もう一歩踏み込んで欲しかったなんて我が侭を言っていそうですが、いえいえ、たいへん素敵な怪談でした。やや物足りないところがありますし、多分にキッチュでもあるなあと思いますが、同時に落ち着くことが出来ましたし、良かったとも思います。怪談はけっこう読み手の精神状態の影響を受けるのですね。ふしぎなものです。

田辺青蛙『菊理媛』

 傑作。秋明菊の可愛らしさには思わず全身が震えました。主人公は毒に蝕まれて正解ですよ、年に数日とは言え彼女ら姉妹と一緒にいることができるのですから、秋山だったら迷わずその場で毒を受けますよ。しかし、それにしても、この作品は文章、物語、登場人物、世界観と四つの要素が完璧なまでに高められていますね。天才の仕事。

伊予葉山『怪奇研究家のUターン』

 こっわぁ……。正直なところ、中盤まではメタな作品だなあと思っていました。小説家の登場する小説や、脚本家の登場する演劇がどうも好きになれない秋山ですが、怪奇研究家の登場する怪談もだめなようです。そう言うわけで、なんとなく興醒めしながら読み進めていたのですが、ラスト一行にやられました。落ち着いて読み返せば、これこそまさにベタな落ちとしか言いようがないのですが、もう怖がらされてしまっては負けを認めざるをえません。良かったです。

朱雀門出『魔誘』

 正直なところ驚きです。この作家にしては上手いだとか、この作家にしては下手という口上は、あまり好むところではないのですが、この著者がこんな「だから何?」としか言いようのない作品を出してきたことに動揺を禁じえません。思わず、二度も読み返してしまいましたが、やはり秋山の誤読や読み逃しではないようですし。ううむ……。

総評

 以上、渾身の一作パート2の全作に感想を書いてみました。
 パート1と比較して数はだいぶ少なかったのですが、充実度で言えばこちらの方が上だったかもしれません。やはり一作縛りの影響は大きいのか、ひとつひとつの作品の質が格段に高かったように思います。もう、そろそろお馴染みになってきた方も多いのですが、今回のものがいちばん出来が良かったような気がします。特に好きな作家を3人挙げるとするならば、うーん、君島慧是、田辺青蛙、立花腑楽ですかね。次点で勝山海百合、もしくは夢乃鳥子。皆さん、たいへんお上手だと思います。
 ところで昨日は、書くことより読むことの方が好きと書きましたが、読むことより編むことの方が好きです。と言うのも、てのひら怪談を読んでいると、アンソロジィが作りたくなって仕方がないのですよね。回廊の超短編、500文字の心臓のタイトル競作と自由題、千文字世界、Web幽の読者投稿怪談、ビーケーワン怪談大賞の落選作などの中から、秋山が気に入ったものを集めたアンソロジィが作ってみたいです。うーん、日下三蔵日本SF全集・総解説』よろしく、架空のアンソロジィの解説エントリ、と言うのもひとつの手かもしれません。