雲上四季〜謎ときどきボドゲ〜

本と涙と謎解きと、愛しさと切なさとボードゲームと

ゆるい本読みが取り上げる右往左往の結果10冊

 名古屋に来た当初は、わりと時間があったので、けっこう本を読んでいましたが、2014年は、仕事が忙しくなってきて、あんまり読めませんでしたね。ここ数年、年始には「今年こそ古典SFと古典ミステリを読もう」とジャンル小説読みとして決意表明していますが、必ず途中から他のジャンルに浮気してしまいます。
 と言うわけで、ゆるい本読みとして、右往左往しつつも、なんとか巡りあうことが出来た傑作10作を、紹介させてください。

ミハル・アイヴァス『もうひとつの街』

もうひとつの街

もうひとつの街

 2014年のベストは、こちら、ミハル・アイヴァスの『もうひとつの街』です。
 ボルヘスカルヴィーノの系譜を継ぐ、プラハを舞台としたチェコ文学にして、シュルレアリスム的イメージを持つ作品です。タイトル通り、プラハの裏側に潜む、もうひとつのプラハを描いているのですが、平易な文章でありながら、喚起されるイメージが豊かであること豊かであること。秋山の理想とする幻想が、余すことなく文章にされていました。傑作。

クリストファー・プリースト『夢幻諸島から』

2014年のベストを『もうひとつの街』にするか『夢幻諸島から』にするかは、最後まで悩みました。実に、甲乙つけがたい、のです。
 ガイドブックの体裁を取っていながら、短編小説でもあり、極めて断片的でありながら、ひとつの長大な物語であり……欠片を集めて、世界の全体像を模索する。能動的な読書が、とても楽しいです。迷いの果てに、2作目の紹介としたのは、どうやら他にも夢幻諸島を舞台とした作品があると知ったからです。この本一冊でも楽しめますが、もっと外に世界が広がっていると知っては、それも読んでから判断したくなる性分なんです。あるいは、まだまだお楽しみが残っている、そういう幸せ、ですね。

森山安雄『展覧会の絵

展覧会の絵 (アドベンチャーゲームノベル)

展覧会の絵 (アドベンチャーゲームノベル)

 ゲームブックという失われたジャンルがあります。
 各パラグラフには数字が振られ、読み手の選択によって物語の行く先が変わる、ゲーム的な要素を持った読み物のことです。まさしく「一世を風靡した」という表現が相応しく、今は、一部のレトロを愛好するファンが残っているに過ぎません。そんなゲームブックを、2014年は一気に読んでみましたが、中でも『展覧会の絵』は叙情的で気に入りました。剣を手に、ドラゴンと戦って、財宝を手に入れたりなんてしたくないんですよ。こういう穏やかで、ファンタジカルなゲームブック、好きです。

林友彦『ネバーランドのリンゴ』

ネバーランドのリンゴ (創元推理文庫―スーパーアドベンチャーゲーム)

ネバーランドのリンゴ (創元推理文庫―スーパーアドベンチャーゲーム)

 ゲームブックから、もうひとつ。
 こちらは冒険欲を余すところなく満たしてくれます。読み進めるごとに世界の輪郭が分かってくるのが面白いです。最初は、とりあえずネバーランドを一周するんですが、一周するのは楽なんですよね。簡単そうなイベントから順にクリアしていって、装備品を整えるんですが、やっぱり魔法が使えるようになってから、俄然、世界が広がりますね。いつでもラストダンジョンに挑めると言うのも悪くないです。分かりやすく言えば、ゲームブックロマンシングサガ1、ですよ。

『厭な物語』『もっと厭な物語』

厭な物語 (文春文庫)

厭な物語 (文春文庫)

 1冊の枠として紹介させてください。文春文庫から出た傑作アンソロジィです。
 良いアンソロジィの条件とは何か? 秋山の考える答えは「読みたい本が増えること」です。十編が掲載されたアンソロジィは、言わば十の扉を持った廊下です。その廊下に迷い込んだ読み手は、ひとつひとつの扉を開いて、その向こうの世界を覗き見ることが出来ます。興味を持ったならば、作者名という手掛かりを元に、さらに先の世界へ飛び立てます。この本について秋山が添えることができるのは、これくらいです。後は、こちらもお読みください。
アンソロジー『厭な物語』ができるまで(執筆者・文藝春秋 @Schunag)

山田風太郎魔界転生

魔界転生(上) 山田風太郎忍法帖(6) (講談社文庫)

魔界転生(上) 山田風太郎忍法帖(6) (講談社文庫)

魔界転生(下) 山田風太郎忍法帖(7) (講談社文庫)

魔界転生(下) 山田風太郎忍法帖(7) (講談社文庫)

 魔術、剣術、居合術、槍術、江戸柳生流、尾張柳生流。名立たる剣豪と対決するは、柳生十兵衛ただひとり。忍法帖シリーズでも一際、人気が高く、最高傑作とも名高い名作。
 最盛期について考えます。人間の身体は、衰えるものなので、どんな剣豪でも、最盛期を過ぎると弱くなっていきます。使えた技は使えないようになるし、倒せた相手も倒せなくなってきます。でも、魔界に堕ち、魔人として転生すればどうなのか? しかも、最盛期の強さを取り戻し、今の理性を持ったまま、さらに魔人の強さまで獲得できるとならば、誰が抗えるのでしょうか。そんな風にして魔道に堕ちた剣豪たちを、人間のまま斬り伏せてゆく柳生十兵衛。かっこいいに決まってるし、面白いに決まってます。

連城三紀彦『夜よ鼠たちのために』

夜よ鼠たちのために (宝島社文庫)

夜よ鼠たちのために (宝島社文庫)

 物語の構図を、きれいに反転して見せる大胆な仕掛けを、惜しみなく短編小説に注ぎ込んでしまう気概。連城三紀彦こそ、短編ミステリの名手の名に相応しいでしょう。
 収録されている9作は、いずれも切れ味抜群、並の作家であれば、ネタを思いついた瞬間に「これで長編が書ける」と思うことでしょう。そんな珠玉の作品だけが集まった短編集です。長らく古本市場においてプレミア価格がついていましたが、復刊希望ランキングで1位を獲得し、この度、宝島社から復刊されました。『戻り川心中』『変調二人羽織』を読まれたら、さあ、夜で待ってます。

ジョン・バンヴィル『いにしえの光』

いにしえの光 (新潮クレスト・ブックス)

いにしえの光 (新潮クレスト・ブックス)

 美しいから記憶に残っているのではない、記憶に残っているから美しいんだ。
 文章の精度がとても高く、とにかく全体的に美しい。中でも、やがて不倫の関係へと至る友人母の、パンチラシーンは印象的。スカートが持ち上がる、起こっている現象は、それだけなのに、どうしてあんなに光り輝いていて、神々しい文章になるのだろうか。タイトルの真意が分かる結末も、また鮮烈、ずっと示唆され続けていたにも関わらず、気がつくことの出来なかった。眩しい光に遮られていた。

ミュリエル・スパーク『バン、バン! はい死んだ』

バン、バン! はい死んだ: ミュリエル・スパーク傑作短篇集

バン、バン! はい死んだ: ミュリエル・スパーク傑作短篇集

 嫉妬、不信、悪意……負の感情と、不条理が出会う、不明瞭な短編集。
 日常の些細なすれ違いも、積み重なるとこんな悲惨なことになるのか。目を覆いたくなるような惨状は、しかし、案外さらりとした筆致で書かれていて読みやすい。ちょっとダークで、ちょっと突飛な短編集と言ったところか、悪意は好きな題材ではないけれど、方向性は好みだった。

リュドミラ・ペトルシェフスカヤ『私のいた場所』

私のいた場所

私のいた場所

「目を覆いたくなるようなむごたらしい日常、過酷な現実に押しつぶされそうになっている者たちの孤独、凍りつくような絶望と背負いきれない不幸に苦しむ女たちの喘ぎ」。
『バン、バン! はい死んだ』よりも負の方向に向かっているけれど、バランスを取るように小気味良い短編も収録されていたりして、これはこれで好みだし、何よりも、そう、面白い! 気持ちの悪い話に対して、面白いという感情を当てはめてしまう人間心理は、いったい何処から来るのでしょうか。不明です。

終わりに

 以上です、今年も面白い本に出会えますように。