あそびファクトリーが協力した、よだかのレコードのブラックジャック×ドラマチック謎解きゲーム『脱走者緊急手術(エマージェンシー・オペレーション・オン・エスケープ)』の感想です。謎に対するネタバレには注意していますが、気になる方は回れ右推奨です。
ストーリー
ある夜 空からふってきた重症の男
男は新人医師であるアナタのかつての友人だった
男はある製薬会社が重大なミスを隠蔽していることに気付き
それをあばきだそうとしていたが
見つかって始末されそうになり
脱走してきたようだ
病院をたらいまわしにされ
このままでは男は助からない
アナタは天才的な外科手術の腕をもつ無免許医
ブラック・ジャックの噂を思いだした
アナタは急ぎブラック・ジャックを訪ねることにした
http://www.yodaka.info/event/1707bj/
結果
「いいだろう。だが、報酬は高くつくぞ」マジっすか、ブラック・ジャックせんせー! そんな大金は払えねえっす。勘弁して貰えないっすかね。後生ですから、ねっ、せんせー! ブラック・ジャックせんせー、ブラック・ジャックせんせー!!*1。
脱出率(秋山が参加した回)
挑戦組:6テーブル
成功組:1テーブル
閉じ込められる前
コラボ作品を遊ぶ前は、可能な限り原典をあたってから遊ぶ派の秋山。
今回も『ブラック・ジャック』を全巻を揃えたので、きっちりかっちり読破してから挑もうと思ったのですが、予想以上に重厚な物語で、ぜんぜん読み飛ばせる気がせず、じっくりがっつり読んでいたら6巻までしか読み進めることができませんでした。
とは言え、一応、一通りの物語は分かりましたし、ピノコはもちろん、ドクター・キリコなどのキャラクタも認識できたので、どんな風に謎解きが展開しても万全だぞ! とは思っていました。
少し『ブラック・ジャック』の話をさせてください。
『ブラック・ジャック』連載当初、ブラック・ジャックは、神の如き存在として描かれていました。
- 作者: 手塚治虫
- 出版社/メーカー: 秋田書店
- 発売日: 2004/10/12
- メディア: コミック
- 購入: 1人 クリック: 22回
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ブラック・ジャック
日本人である以外 素性も名まえもわからない
だがその天才的な手術の腕は神業とさえいわれている
このなぞの医者は 今日もどこかでメスを持ち
奇跡を生んでいるはずである
莫大な報酬を要求するものの、最後にはその金を依頼主に返したり、貧しいものに恵んだりして、すべてがブラック・ジャックなりの理論もしくは哲学の元に、丸く収まるように収斂するのです。
この物語の完璧さを、当初は美しいと感じました。
しかし、読み進めているうちに、特にピノコが登場してからですかね、ブラック・ジャックの人間性が浮き彫りになってきました。
ときにムキになって喧嘩したり、ときに患者の死の運命に敗れて打ちひしがれたり。
特に「ちぢむ!!」からの「ふたりの黒い医者」の流れは、手塚治虫の天才性にめまいを覚えるほどです。
「ちぢむ!!」は生き物の身体がどんどん縮んでいく、原因不明の奇病と戦う物語です。ブラック・ジャックと縁のあった戸隠先生がアフリカの奥地で野生の動物や、原住民を襲うこの奇病と戦っているのですが、彼もまたその病に倒れてしまうのです。ブラック・ジャックは戸隠を救うために手を尽くし、血清を作りだすことに成功するのですが、間一髪のところで間に合わず、諦めてしまった戸隠が、
「ブラック・ジャックくん わたしには神さまのおぼしめしが見えるようだ……このききんの中で生きものがちいさくなるということは……
かぎられた この この地球の食料を生きものぜんぶに……わ わかちあうには……か からだを縮小しなければだめだ……といういみ……かも……
と呟き、そして息を引き取るのです。
これは物語の主人公にして、それまで患者を救う神として君臨し続けていた医者ブラック・ジャックの敗北です。しかも、血清には間に合ったにも関わらず、患者が生きることを諦めてしまったことによる敗北です。
ブラック・ジャックは、この死に対して真正面から向かいあい、以下のような台詞を天に向かって吠えます。
神さまとやら! あなたはざんこくだぞ
医者は人間の病気をなおしていのちを助ける!
その結果 世界中に人間がバクハツ的にふえ
食糧危機がきて 何億人も飢えて死んでいく……
そいつがあなたのおぼしめしなら……
医者はなんのためにあるんだ
アフリカの大自然の中、胎児と見間違うほどに小さくなった戸隠先生を抱え、天に向かって叫ぶブラック・ジャックに涙を禁じえません。
その後の「ふたりの黒い医者」も傑作中の傑作です。
この作品は、ある意味において、ブラック・ジャックが初めてドクター・キリコと真っ向から対決する物語かもしれません。多額の報酬を要求しつつも、神業でもって患者を救いだすブラック・ジャックに対し、この患者は救えないと判断したら容赦なく安楽死させるドクター・キリコは対局の存在と言えます。
ある時、事故にあい、寝たきりとなってしまい子どもに迷惑を掛けている母親が、ドクター・キリコに安楽死を依頼します。一方、母親を救いたい子どもたちは、せっせと働いてブラック・ジャックに手術を依頼します。
ブラック・ジャックは見事、手術を成功させ、子どもたちは大喜び、ドクター・キリコは、
生きものは死ぬ時には自然に死ぬもんだ……
それを人間だけが……
むりに生きさせようとする
どっちが正しいかねブラック・ジャック
また会おう!
と言って去りかけます。
問題は、この直後です。
突然、母親が入院した病院の医者がやってきて、患者が死んだことを告げます。子どもと共に、交通事故にあって死んだと言うのです。
これを聞いて、ドクター・キリコは大きく高笑いをあげ、ブラック・ジャックは彼にしては珍しいほど大きく目を見開き、ダラダラと汗を流し、悔しそうに歯を食いしばったかと思うと、
それでもわたしは人を治すんだっ
自分が生きるために!!
と拳を握って宣言します。
くはーっ!
良過ぎます。
ブラック・ジャックの熱い覚悟に、胸がカッと熱を持ちます。
これらの傑作エピソードは4巻に収録されています。
ブラック・ジャック (4) (少年チャンピオン・コミックス)
- 作者: 手塚治虫
- 出版社/メーカー: 秋田書店
- 発売日: 2004/11/25
- メディア: コミック
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閉じ込められてから
「荷物整理棚を配るので、配布物は、その棚を使って管理してください」
……えっ!?
前説を聞いている最中、スタッフの方がテーブルまで持ってきた「荷物整理棚」を見て、思わず目が丸くなりました。
よだかのレコードさんと言えば、荷物整理箱、通称ゴミ箱です。
しかし、その瞬間に気づきました。
今回、協力として名前を列ねている、あそびファクトリーさんは物量が多いことに定評のある謎制作団体さんでいらっしゃいます。と言うことは、物量の多いよだかのレコードと、物量の多いあそびファクトリーと組み合わさったことで、物量がめっちゃ多い謎解きになった!?
うひー、こいつは楽しみだぞー! と、封筒を開けてから怒涛の時間が過ぎ去り、気がつけば、
「1分前です」
「えっ、もう1分前!? 間に合わないーーー」
脱出を終えて
駄目でした。
でも、どうですかね、後、1分あったら、なんとかなったかもしれません。いえ、1分なんて贅沢なことは言いません。30秒でも行けていました。
現に終了の十数秒後、
「ああっ、これだーっ!」
と気づけていたからです。
でも、悔しさという気持ちは、あんまりなくて、純粋に、
「楽しかったな~」
という気持ちしかないんですよね。
ふしぎなことに。
理由は、きっと、純粋に公演が良かったからです。
最初から最後まで、一瞬たりとも無駄な時間はなく、ずっとずっと楽しい時間だったのです。だから後悔もなく、なんの不満もありません。
ふしぎなものですね。
成功できていれば、もちろん嬉しいですし、もっと喜べていたものと思いますが、成功失敗に関わらず、この公演が傑作であることには変わらないでしょう。
今年の新作の中では五本の指に入る傑作公演でした。
追記
余談ですが、よだかのレコード代表のへるおさんが直々に司会をやっていて「おー」と思いました。
栗原さん司会も安定感がありますが、へるおさん司会も貴重感があって良いですね。
秋山チャート
要素 | 5段階評価 |
---|---|
オススメ | ★★★★★ |
探索 | ★★★ |
物量 | ★★★★★ |
ストーリー | ★★★★★ |
緊急度 | ★★★★★ |
*1:平たく言うと失敗