現世と電子の海の境い目を任せられし守護竜。その竜は境界線を意味するボーダの名で呼ばれることもあれば、陰陽師が使役する式神になぞらえて夢現式と呼ばれることもあれば、ただ単にケモノと呼ばれることもある。
さて、ここにひとりの男がいた。彼は現世の住人でありながら、電波の方程式に惹かれ、その震域を侵さんと欲するものであった。
男は沈む。竜は見上げる。
男は見下す。竜は牙を剥く。
男は剣を抜く。竜は爪を振りあげる。
男は竜の攻撃を躱す。竜は男の懐への侵入を許してしまう。
男は振りかぶった剣を振りおろす。竜は腹から血を流し呻き声を上げる。
男は剣を鞘に戻し竜の傍らを通り過ぎる。竜は片目を笑みの形にしならせ尾を振るう。
男は両腕を交差させたが竜の尾の直撃を喰らい、電子の海に叩き落される。竜は大きく口を開け笑がくいあうぇ、かぱいん、ぁびああしおんえぁえっじゃさ――。
電子の海に溺れた男には、もう何も判らなかった。