静かな森に身を清められた番人が立ち尽くしていた。
その前には鉄鎚を持った女性。
「私は風雅使いの朱香月朱巳。これから貴方を完成させるわ」
薄く紅の差された形のいい唇で笑い、朱香月朱巳と名乗った女は鉄鎚を番人の下半身が眠る石塊に振り下ろした。
猫が立ち上がった。
風雅使いは鉄鎚をバッグの中にしまった。
番人が、目覚めた。
翡翠色の瞳で、暗い森の中に佇む猫と女に目を向け、番人は深く項垂れた。
一歩踏み出した番人に、女は石の言葉で何事かを告げた。
番人は諒承を意味するように頷き、組んでいた腕をとき、三本の矢を手に取った。
「お……おおおおぉぉおおぉぉぉぉ」
雄叫びと共に、番人は矢を放った。
鬱蒼と繁る森から三条の石矢が放たれ、それは天に浮かんでいた目に映ることのない城の外壁を穿った。三本の矢は、時間をずらして皆同じ場所に命中し、地上に立っている女の視点からでも、天に抜け穴ができたのが見えた。
天の離宮が見えた。
現実に零れ落ちる架空の世界だ。
女は振り返り、森の番人に礼を言った。