雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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CIRCUS

 異国の楽器が奏でる音楽と、異国の香料が醸しだす未知の雰囲気。
 テントの中は熱気と狂騒とに支配されていた。お忍びで城下に降りてきた国王は、思わず口元に手をあて感嘆の声を漏らした。人波に押され、国王は自身と同じようにみすぼらしい格好をしている近衛騎士と共に、客席の端についた。テントの中央では、この寒い国では考えられないほどに露出度の高い服装の女性が踊っている。その隣では、見たこともない、しかし本能的に危険を感じさせる猛獣が牙を剥いている。猛獣が女性に飛びかかろうとした正にその瞬間、女性は掻き消えた。客席から歓声が沸くのと同時に、国王は視線を上げる。上空では仮面で顔を隠した男が女性を、その腕に抱いている。飛んでいるようにしか見えない。
「素晴らしい……」
 そう呟いた直後、国王は腹に異物感を感じた。見下ろすと、ぬめった鋼が布の服を貫いているのが見えた。再び歓声、国王は何事もなかったかのように上空に視線を戻した。男が緩やかに落下しながら、地上へと舞い降りるところだった。腹に感じていた異物感が消え、隣にいた近衛騎士が騒ぐのが遠くで聞こえた。壇上で男と女が一礼すると共に照明が消えた、暗転。


『風と太陽の宴』498文字