読んだ順。
雲上回廊『ゆる本 Vol.16』しょっぱなから、自分が編集している本で恐縮ですが、今回は読んだ順に書いていこうと思います。発行者や編集者の立場と言うより、ひとりの読者として、訥々と感想を綴らせて頂きます。蒼ノ下雷太郎「はいぱーてきすとぷれい殺人事件」探偵・天十字十三郎を主人公(?)とした殺人事件シリーズ。回を追うごとに破綻が著しく、読者に対して求めるレベルの高い、この作品を巻頭に配するのはいかがなものか。と疑念を呈さないでもないですが、雷太郎さんの、こういう作品が、たやすく載ってしまい、しかも巻頭であるというのが『ゆる本』の『ゆる本』である理由なのでしょう、多分ね。氷砂糖「ネガ/ポジ」ペンネームが変わってからは初めての登場となる氷砂糖さん。独特の透明感溢れる筆致は、健在で、短さも相まって注意して読めば、すぐに「ああ、このひとか」と分かってしまう。作品を匿名で掲載する企画があっても、きっとひときわ透明度が高いのが氷砂糖さん。鵺屋イサイ「屍肉歌い」面白かったです。テレパシーのような性質を身につけた人類(?)が、食事と呼吸以外では喉を使わない世界で、肉声で歌を歌う少女と出会った少年の物語。喋らなくてもコミュニケーションできる世界を、しっかりと描きながら、そこにおける肉声で歌う少女の特異性を浮き彫りにしつつ、そんな少女に惹かれてしまう少年という構図が、とても良かったです。伊藤鳥子「遠心力」イラストはシギサワカヤですね。堕落した男女の堕落した生活、しかし、こういう破滅的なのが文学だと時々、思うのですよ。視紙結「目ざまし時計と「ぼく」と「僕」」なんか、奥深い仕掛けが施されている気配は感じるのですが、二回、読んでみて分からなかったので諦めました。とにざぶろう「旅立ちの朝に、寝坊」これは、なかなか面白かったです。勇者と魔王の物語かと思いきや、まさかの寝坊して、パーティのメンバーに置いていかれた悲劇の主人公……と思わせておいて、最後の最後ですっとひっくり返すような手際が見事。長屋言人「それは愛についての考察」ちょっと波長が合わなかったという印象です。残念ながら。遠野浩十「奇想曲シャンパン・ボトル・ボソン」これは、すごいですね。ふたりの女子の、なんてことはない会話から、コックリさんによる自動筆記に話が飛んだかと思うと、いきなりヒッグス粒子が消滅し宇宙が終焉を迎え、情報宇宙の時代が幕を上げるスピード感には目眩を覚えました。なんか、よく分からないけれど、すごい小説でした。蒼桐大紀「パラダイムコード」ふたりの女子の、なんてことはない会話から、ハイパーテキストプレイの略称たるHTPが、HTMLと組み合わせた造語、HTPMLに化けたころには、思わず笑顔がこぼれました。こういう改変は面白いですね。佐多椋「無題」なんとなく、こういう作品が、正統派ハイパーテキストプレイと言うのだろうなと思ったりしました。ハイパーテキストプレイというのは、歴史の浅い文芸実験で、まだ作品数も充分にありません。と言うか、秋山が勝手に提唱して、秋山が勝手にやっているだけですし。しかし、この作品は、そんな中で、指針のひとつになりそうな骨の太い作品だと思いました。青砥十「後輩書記とセンパイ会計、半裸の老婆に挑む」こうして読むと、青砥さんの文章力は群を抜いていますね。会話文と地の文のバランスがちょうど良く、エンターテイメント小説としての完成度が高いです。最後の手のシーンは、ちょっと不意を突かれましたね。ふみちゃんが激烈にかわいい、略してふみちゃん激かわ。根多加良「日本の風景:パンツ重ね」架空の日本における、パンツ重ねという不可思議な習慣を描いたもの。往々にして、異国の風習というのは奇異に見えるもので、このブリーフやらボクサーやらを五枚も六枚も重ねて履いている男性諸氏は奇っ怪に見えます。その奇っ怪っぷりを楽しむという点において、至極もっともらしく持論を展開する落ち着いた語調が面白かったです。秋山真琴「その日、アンドレ・ブルトンは」拙作。シュルレアリスムの旗手・ブルトンを主役に据え、歴史改変SFに挑んでみました。創作文芸 見本誌会場の『ゆる本 Vol.16』において、見本誌立ち読みと称して、全文を公開していますので、気になる方は、どうぞ。添田健一「シュガーボム」チャット形式の横書き作品。『ゆる本』史上、最も手間の掛かったデザイン。そえさんの、初恋のひとの名前は、あかりさんと言うのか……。絶対移動中『絶対移動中 vol.12 リアクション、2回目』文学フリマで買ったり貰ったりした同人誌の中で、いつも真っ先に着手するのは『絶対移動中』です。自分の作品が載っているからと言うより、自分好みの作品が載っているからという気持ちが強いですね。と言うわけで、引き続き寸評です。霜月みつか「孤独なたましい」語り手が幽霊であり、アイドルの追っかけという、なかなか面白いスタートに反して、枕営業のあたりから急速にリアリティが薄れていって、尻すぼみ感が否めません。蜜蜂いづる『きみになりたい』全編に溢れかえるリアリティは、もはやちょっと調査してみたレベルを凌駕しており、いづるさんの本気が窺い知れます。そう言えば『ジョソウダンシ』というタイトルを聞いたときに「いづるさんを誘えばいいのに」と思ったことを思い出した。でも、あの本に、ここまで抉りこんでくる作品があると、一気にドロドロし始めるので、結果的に問題なかったような気がしないでもありません。話を戻して、相変わらず凄まじいパワー、凄まじいバイタリティだと思い知った次第。いづるさんパネェっす。秋山真琴「酒と泪と男と女と部屋とYシャツと愛しさと切なさと秋山真琴」拙作。タイトルに著者名が含まれるので、デザイン上、困ったと鳥子さんに苦言を呈されました。実際に見てみると、確かに収まりが悪いです。そのとき偶然、隣に、霜月さんが立っていたので、試しに「霜月さん、次回作のタイトルに秋山の名前を入れてもらえませんか」と聞いてみたら「いいですよ」と即答してくださったので、やはり著者名は必要であることが証明されました。霜月みつか先生の次回作にご期待ください。業平心「名前のない喫茶店」秋山同様、有村行人「マンデリン、または孤独のカフェ」をリアクション元とする小説。ロックは好みませんが、使っているライターが一緒であることに、ふしぎな親近感を覚えました。くりまる「風車の前で」ん、んー? これは、ちょっと、よく分からなかったですね。なにか深い意味がありそうな気はしますが、読み取れませんでした。三糸ひかり「趣味の翻訳」いきなり新企画が始まっていて吹き出しました。みいとさん、なにやってんすかwwwと思いながら読み始めたら、わりと面白くて悔しいです。ぎりぎり(ハンカチを噛み締める音)。有村行人「響き、胡蝶の夢」硬い、硬いですよ、けんけんさん。評論と聞いていたので「評論にしては、描写が豊かだなあ」と思っていたらエッセイとのことで、はあ、なるほどと思わないでもないですが、やっぱり、ちょっと硬かったです。青砥十「後輩書記とセンパイ会計、列車の消失に挑む」なんかタイトルから阿井渉介『列車消失』を連想して、勝手にミステリだと思い込んで読み始めて、ミステリじゃないときの「これはミステリではない」という理不尽なツッコミをする面倒なミステリ読みになりそうになりました。加楽幽明「カメラ・オブスキュラ」幽明くん、こんな小説、書いてる場合じゃないよ。宵町めめ「幻想の小雨」少し前にドッグさん、めめさんと3人で新宿のイタリアンに行きました。確か、そのときに「一行怪談が面白いんですよ」と話していたような気がします。実際に読んで思ったのは、分母の問題。たとえば句集や歌集を作るときに、作品を10本載せるからといって、作る数が10本ではいけません。20本も30本も作って、その分母の中から、特に良いと思う10本を選ぶと良い作品集が出来るような気がします。高橋百三「あかいみ」ほ、ほ、ほう。いい作品ですね。心に染み入ります。伊藤鳥子「架空の時間」なんや、これ、ええ話やー。鳥子さんらしい題材でありながら、最後は胸があったかくなる、素敵なお話ですね。佐藤『ダイヤモンドの戦士』続いては佐藤さんの最新作。1センチに満たない厚さの新書版ですが、2段組+文字サイズが小さめのこともあり、長さ的には長編小説ですよね。自分がどれくらい読んだのか気になるので、創作文芸クラスタ各位は、自作の文字量ないし原稿用紙換算の枚数を公開頂けると幸い。内容について。けっこう読むのに時間が掛かりました。出だしのところは、海外小説を思わせるカタカナの名前に、よく分からない状況に困惑しましたが、甲州国や西湘国といったキーワードから「遠い未来の日本か!」と分かり、さらに、町田や秦野といった地名で一気に親近感が湧きました(ネオ群馬は天才的ネーミングですね)。ただ、そこから先は、やはり薄皮一枚挟んで異国のようで、どうにも馴染めないのが続きました。盛り上がってきたのは、表紙で描かれている場面が分かったとき。「ああ、このシーンが表紙なのかああああ」となり、そこから先は、もう怒涛の展開でした。文フリの打ち上げで、佐藤さんが「子どもに自作を読ませるならこれ」と仰っていましたが、なるほど確かに子どもを育てる親の視線の入った作品でした。広く読まれたい一冊ですね。西瓜鯨油社『南武枝線』南国の咽返らんばかりの気怠さと生温かい官能を得手とする、と勝手に思い込んでいた牟礼鯨さんによる痴漢と恋愛を描いた作品。南武線を中心に、見知った地名が頻発し、セフレとセックスしたり、痴漢したり、飛び込み自殺を見たりして、最後は、ちょっと幻想的な感じでした。ちょっと時系列が分かりにくく、章と章のぶつ切り感が強かったかな。少年憧憬社『花泥棒と秘密の猿たち』前作……に相当するのかな『川町奇譚』が面白かったので購入しました。Evernoteにブース番号・サークル名・作品タイトル・価格を記録しておいて、iPhoneで確認しながら会場を回ったのですが、少年憧憬社さんのブースを見つけたので、まっすぐに向かい、開口一番「新刊ください」と申し出たら、売り子の方に驚かれました。「見本誌をご覧になられて来たんですか?」「いえ、見ていません」「どうして中身も確認せずに購入頂けるんですか?」「(ヒアリングを受けている……、さくさく回りたいので時間を大事にしたいけれど、こういう姿勢は好きだ)『川町奇譚』が面白かったからです」「こちらとは雰囲気がだいぶ違いますけれど大丈夫ですか?」「大丈夫です」「そうですか、ありがとうございます」というような経緯を経て、購入できました。実際に読み始めてみたところ、なるほど確かに雰囲気が異なりました。と言うか、同じ作者とは思えないレベルで異なりました。が、この幻想的な、ふしぎテイストな作風は、むしろ好むところで、また次元の異なる驚きも仕掛けられていて、趣向として『川町奇譚』よりも好みに近いです。それにしても……いい表紙です。童チョコ『きっと最後』前作『河童チョコ』が面白かったので、次も買おうと思っていたらタイトルが『きっと最後』なので「なるほど、童貞チョコレート、略して童チョコは卒業か」と勝手に邪推していて(たいへん失礼である)、そのことを文フリ後の打ち上げでちょっと喋ったりしましたが、はてなを見たら、ほんとに童チョコとしての活動は、おしまいの様子で、おめでとうございます(たいへん失礼である)。閑話休題、内容は全体的に『河童チョコ』の閉塞的な雰囲気が払拭され、どこか吹っ切れた、雨上がりの空のごとき様相を呈していました。イメージとしては、異性の気配がみじんもない男子校に通っていた高校生が、見事に大学デビューを果たした感じ。端正な「夏の魔物」、刹那的な生き方が文章に落とし込まれている「きっと最後」、初心な「もう少し想像」の3作が特に面白かったです。後、誤字が多すぎることに関しては、鯨さんが嬉々として指摘するだろうから、秋山はしません。超短編マッチ箱『幻色キノコ図鑑』タカスギシンタロさんとがくしさんが、きのこをテーマに共作(競作?)してる本。きのこかわいい。タカスギシンタロさんのは「赤字路線」、がくしさんのは「きのこのある風景」が気に入りました。この間、バリー・ユアグロー『セックスの哀しみ』を読んでから、心の底で思い続けているのですが、やっぱり、この長さの奇想は面白いですね。夜道会『へんぐえ〜翡翠〜』久々に超短編を読んで、なんだか気持ちが向いたので、着手してみました。けっこう色々な参加者が色々な作品を書いているので、全部に言及すると大変です。なので、特に「これは!」という作品だけピックアップ。青懸巣「妖器誕生」うひー、これは面白いですね! しかし、ぬこかわいそう。道三「想いは尽きず」こういう吹っ切れた文体は、なんだか一周して、逆に好きになってしまいます。ラブ。楠沢朱泉「橋の上で」これは、極めて素敵ですね。元々、雨降小僧は好きな妖怪ですし、河童が橋姫を勧誘するという構図も、どこか面白おかしく笑えます。きゅろがっぱー! ってな。青懸巣「父の親友」な、なんというブラックユーモア。しかし、hiantaさんの不気味かわいいイラストもあいまって、なんだか良い雰囲気。と、ここまで書いてから気づいた「妖器誕生」の著者さんでした。青懸巣さん、フォローしとこっと。百句鳥「うみぼうず対りあじゅう」なにこの海坊主wwかwわwいwいwww新熊昇「ホテル・ニュー陰洲桝」はっはっはっ、面白い。タイトルの時点で、クトゥルー物であることはバレバレだけど、この落ちは想定外でした。剣先あおり「サークルK」タイトルの意味が分かった瞬間に苦笑。いやあ、でも、微笑ましい、良い作品ですね。紗弥さんのイラストも、えろてぃかるで良いです。立花腑楽「ぼくのかんがえたあんこくしんわ」中盤から、まさかの展開で「ええっ、どういうこと!?」ってなりました。読了後に著者名を確認したら、ふらくさん。えっ、こんな面白おかしい小説も書かれるんですね。五十嵐彪太「螺鈿の一夜」これは、ふしぎな読み応え。ほのかにふしぎで2回、読んでから著者名を見たら、ひょーたんさんだったので驚き。渋江照彦「助言」もの悲しい。切ない。河内愛里さんのイラストが、また良いですね。いろいろ美化して想像してしまいます。込宮宴「少年探偵九段甘彦の事件簿 ミサキ荘殺人事件解決編」あ、これは上手いですね。結末を見て「ほほう、そういうことか」と膝を打ってから、題材となった妖怪を確認してやられたと頭を抱えまして、それからタイトルを確認したら、なんだかイロモノで、本文から着手せずに、まずタイトルを見ていれば、まだ防御線が張れたのにと後悔。明神ちさと「島からの便り」参りました。横溝正史大好き勢として、なんだか横溝っぽい雰囲気の作品だなー好みーと思いながら読んでいたら、まさかの宛先! そして差出人! ってことは、この「島」って「あの島」のことかー!! 既存の作品を上手いこと使いながら、妖怪に繋げる、その手腕、お見事。白縫いさや「波小僧の暇乞い」落ち着いた筆致に、もの悲しい余韻。いさやん、いい仕事しますね。御於紗馬「しゃくがない」面白いっ! くだらないと思いつつも笑ってしまったら負けですよね。参りました。35℃『天使の標本』破滅的な、あまりに破滅的な恋の物語。プルキニエの蝶と呼ばれる鱗粉に猛毒を持つ青白く発光する蝶、元癲狂院に暮らしている主人公、そして足枷で自由を奪われた翼を持つ少女。幻想的な要素をかき集められた構成された世界は、しかし滅びに向かって進んでおり、主人公の破滅的な思考、盲目的な語りは、どこか病的で、どこか純粋でした。こういうの好きです。文芸結社猫『そして太陽は燦々と照っていて【エッセンシャル版】』『粘菌手帳 おためしくさびら』『立読 タチヨミ』山本清風さんの本は、以前に『そして太陽は燦々と照っていて』を見かけたことがあります。以来、延々と読みたいという妄念を渦巻かせていたのですが、今回もブースに立ち寄ったら、どうにも怖気づいてしまって買いそびれてしまいました「どうぞ、ご覧ください」「ありがとうございます、ふむ、素敵なジャケットですね」「いつもスーツを着ています」「いつもですか! その太陽の塔も?」「太陽の塔もです」「ありがとうございました。また機会があれば」「よろしければ、これをどうぞ」そう言って、山本清風さんが差し出してくださったのが、3冊の自著のお試し版でした。その瞬間、秋山は「お、ラッキー。このお試し版を読んで面白ければ、次の文学フリマで買えばいいんだし、しめしめ」と思ったのですが、このお試し版は山本清風さんの大いなる罠でした。何故ならば、この3冊のお試し版を読み終えた秋山は、現在「ぐぎぎ、読みたい読みたい、早く読みたいよ、ひぎぃ」となっているわけでして、なんだか苦しいです。困ったものです。うたかたな日々『すこしふしぎな書ものがたり』前作よりも格段に面白かったです。今回は、どちらの作品も、月季姉さんの得意分野だったと思いますが、個人的には「Somnium」の方が好みですね。はしっこ文庫『はしっこ文庫スリー+モリ』はしっこ文庫さんの第2作なのに、タイトルには「スリー」という不思議。ブログでの告知も不充分で、事前情報は少なめ。500円くらいだったかしらと思いつつ、財布を取り出したら「150円になります」「What?」「150円になります」「はい、ちょうどあります」ほんとに150円で買えてしまいました! 安い! どういうことなの……。内容については個々に書きます。タケオカ「TO SPACE」前半は就職できない大学生と社会人の女性との淡い付き合いで、まあ、取り立てて目立つところのない、過不足のない作品だったのですが、後半から急激に回転数が上がって驚きました。フランス語を会話に交える教授との会話は小気味良いし、恋人とのひと時も、なんだか甘く切ないです。欠点は、やや断片的に過ぎるところかな……もう少し連続性が欲しくはあります。タケオカ「JK姫」へたっぴなイラストと、風刺を交えた内容。とても「TO SPACE」を書いたひとと同一人物とは思えず、多才だなあ……と。モリ「鳩の空騒ぎ」脚本、なのか脚本風の小説なのか。さくさく読めて、最後は、かくーんと落ちる感じ。まあ、良いドタバタコメディですね。キコ「コドモのくつや」これは……いかんともしがたかったです。敢えて言うなら、イラストが面白かったです。タケオカ「Rainy Quest」図書館のシーンが好きです。今村友紀/渋澤怜/吉永動機『甘いものは別冊 1』装幀かっけぇ! 野条さん、マジパネェっす。そして、よく見たら1巻だった。今村友紀「チョコあ〜んぱんまでスリーマイル Episode.I「爆発的事象」」取り立てて指摘するところのない、ウェルメイドな企業小説……にしては、どこか面白おかしく、タイトルから予期していた通り終わってなく、なーんだかなあ。序盤の妙にリアリティ溢れる説明は、わりと好きでした。渋澤怜「ゴッド・ブレス・ガルボ」なんじゃこりゃ。現実世界に変なものを作り、変な感じのものを作る。系統としては異色作家短篇集や奇想コレクションに近しいけれど、ちょっと期待値が高すぎたのかもしらん。KとNが出会うまでの非現実の説得力はあったけれど、最後が、若干、尻すぼみだったかな。吉永動機「きっと負ける」これは、すごいです。キットカットがガジェットとして出てきたけれど、それだけの様子で、吉永さん自由だなあと思っていたら、140ページの、あの一行には度肝を抜かれました。や、インパクトで言えば、怜ちゃんの70ページも劇的だったけれど、140ページの「はあ、こいつ何、言い出しちゃってるの?」感と「これ、もしかして、超大傑作なんじゃね?」感がミクスチャーされ、突き抜けている感じは激烈。本全体に関して、なんか、若干、ネガティブな表現が多めになってしまったけれど、概ね面白く読めたのは間違いないので2巻も楽しみ。版型が微妙で、読みにくいけれど、パッと見のデザインは秀逸なので、野条さんには、是非、次回も奇天烈な仕上げを期待したい所存。ところで、次の同人誌の感想に行く前に、脈絡なく牟礼鯨さんについて語りたいと思います。あるいは文学的な存在について。秋山にとって、文学というのは、新奇さの別称です。読み手の中には、文学という概念は、非常に古臭く、小難しく、やたら高尚かつ迂遠な表現を多用する、面倒で煩雑な読み物だと判じている方も見受けられますが、秋山の評価は、完全に逆です。実際に読んでみると全然、高尚でない。ときに乱暴だし、ときに適当だし、むしろ、そういうリズムが心地良い。さておき、文学というのは、ある種、禁忌を犯す勢いで、新奇さ、斬新さを追求している領域だなあと考えています。平易な表現をすると、ロック。一応は、上品な言葉で飾っていたり、あるいは飾っていなかったりしますが、本質にあるのは破壊であり、創造であり、それがセックスだとかバイオレンスだとかディスコミュニケーションだとか、まあ、そういう形を装って表現されています。実際、この手の表現は疲弊を伴います。自分で自分を切りつけて、吹き出た血を絵の具代わりにして絵を描くような行為。そういう自傷的な行為を自覚的なり、無自覚的なり取っているひとを、文学的な人と呼んだりしています、なんとなく。自己顕示欲が強く、他者を自分の物語に落とし込まないと納得できず、破滅的で自滅的で、そして何よりも貪欲。そういったひとを見ているとね、諸君、我が家の猫を思い出しますね。猫と一緒に暮らしているのですが、普段は、実にぶっきらぼうなんですよ。撫でてあげようと近づくと逃げるし、抱きかかえると嫌がります。それでいて、こちらが疲れきって布団に倒れこんだときに限って、近づいてきて顔の前で丸くなったり、上に乗っかってきたりするんですよ。この傍迷惑さ、なんとかならないのでしょうか。ツンデレ属性持ちには快感なのかもしれませんが、正直なところ面倒なだけです。@RayShibusawa『音楽の花嫁』抜群に面白かった。堅実な物語展開に、よく練られた奇想、それらが有機的に絡みあって上質の小説を構成していました。気分は、美味しいものを食べた感じ。先に『甘いものは別冊』を読んだのは失敗だったかもしれません。そうでもないかな。MisticBlue『Tranporter』セピア調の素敵なイラストが表紙を飾るA5版の同人誌。何年か前に、表紙にも描かれている女の子が、退屈そうに車窓から町並みを見下ろすイラストの描かれたチラシを貰ったことがあって、そのときから興味を抱いていたけれど、題材が好みでなく看過してしまっていました。けれど、部数を刷りすぎたのか、それとも売れ行きが好調でないのか、その後も、何度も同じ表紙を見返すことになり、その度に「ああ、買おうかな、どうしようかな」と迷い続けていた一冊。ついに読みました! いぇい! まあ、内容は、事前に予想していた通り、好みからはかけ離れていました。ただ部分部分はいいんですよね。リュミエールが敬礼するシーンとか、メリーが白刃に怯えるシーンとか。公式サイトを見たら、どうやら壮大なシリーズ物らしく、帝国が没落する前の物語や『Transporter』では脇役のミストが主役の作品もある様子です。まあ、のんびり読んでいきましょうかね。近江舞子『Phantasmagoria』4人の参加者が、それぞれ好きな作家のトリビュート作品を書いている短編集。ちょうど、ここのブースに辿り着いたところで、用意していた紙袋がいっぱいになっており「どうしたものか」と思っていたら、綺麗な売り子さんに「これ使ってください」と超絶級にお洒落なバッグを頂いて感激。柄が、かなり好みで「普段使いできますね! もしかして自作ですか?」「いえ、好きなブランドなのです」「気に入りました」みたいな会話を交わしました。さて、本について……森田紗英子「冬の旅」シンプルですけど、いい短編ですね。最後、大声を出すシーンは、特に素晴らしいです。近江舞子「トランスベスタイト」ここ10年くらい、コムサとユニクロしか着ていないので、親近感は半分くらいです。共感の小説ですね、これは。松永英明「天空樹堀」これは面白いですね! 最初はスカイツリーのツアーで、現代の題材を扱っているなあと思ったら、シームレスに幻想要素が満ち溢れ、鮮やかな手並みによる反転に、思わず膝を打ちました。とにかく上手い、上手い小説でした。泉由良「雨、ぶどう、アイスミルク」思い浮かんだ言葉は、フラジャイル。きっと陶子という名前から連想したのでしょう。壊れ物にご注意ください、ご注意ください。近江舞子『乙女の為の小品集』乙女をテーマとした短編集。近江舞子「悪趣味な君は」衒学的で破滅的、自堕落で内省的。「トランスベスタイト」でも思いましたが、とにかく空間の描写が上手。そこにあるガジェット、そこから想起されるイメージ、店員との会話。これらが、うまく絡みあって、完成度の高い空間を演出しています。森田紗英子「リナシェンテの聖杯」改行が多い割に、行頭の一字下げがされていないと存外、読みにくいですね。イタリアは、行ってみたい土地です。珀亞楓「醜き純潔にぬくもりを」乙女と少女というのは、似ているようで非なるものなのだなあと、改めて思った次第。鈴木真吾「乙女憧憬随想録――ある濫読家の手帳から」のりっのりで書いてますね、鈴木さん! 少女を題材と言えば、個人的には桜庭一樹だけれど、触れられておらず、ちょっと残念。後、最近だと七河迦南。門外漢の身からすると、筆の赴くままに書かれてしまうと、追いかけにくいので、年表を作ったり、系譜を作ったり工夫頂けると助かったと思います。黒澤丙「罪、或いは快楽の受胎」いびつな小説でした。女性の語りであるはずなのに、精神的要素は、ほんの表面を謎るだけで、全体的に骨子の部分をピンポイントで突くように展開するので、淡々とした印象。扱っている題材は少女的なのに、語りが男性的という違和感。面白かったです。詠村岬「をとめの姿 しばしとどめむ」いいんじゃないですか。題材とテーマは、ややテンプレですが、訥々とした語り口は嫌いではありませんでした。それよりトリックのところが気になったかな。もう少し、あざといミスリードを仕掛けてもバチは当たるまいと感じました。ヒキムスビ「リボンを結ばれたネクロノミコン」激烈に面白かったです。これは、素晴らしい、大傑作ですね。ヒキムスビさん、この方の作品と出会えただけでも、この同人誌に着手して良かったと思います。実際に剥製作家であるらしく、どうやら小説作品は手慰みに書いた様子。なるほど、あのリアリティは、実際に手掛けているからこそだったのかと納得です。サイトやブログに掲載されていた作品の写真を見てみましたが、思わず鳥肌が立ちました。小説は読めますけれど、写真は、嫌悪感や罪悪感が先に立ってしまい、苦手です。しかし、もっと親しくなりたいものです。展示する機会があれば、足を伸ばしてみようと思います。Gabb--「わずらいの恋」う、おおおお! これも良いですね。素晴らしい。二連続で好みの作風を堪能できると思わず笑顔になります。自室待機の時点で、どういう構造なのか、なにが起きるのか、だいたい読めてしまいますが、そんなことは、これっぽっちも関係なく、予定調和的に終焉に向かうのを、じっくり楽しむことが出来ました。ym.「乙女の定義」散文的に過ぎる……と思っていたら、予想外な結末で思わず吹き出してしまいましたとさ。久地加夜子「犬の視界」う、上手い……。久地加夜子さんは、気がついたらフォローしていて、いつか著作を読みたいなあと思っていたところ、本書に収録されていたので好都合、と思っていたのだけれど一読して、今まで手に取っていなかったことを後悔。犬の語り手、娘の成長、養父との関係、個々のシーンの完成度もさることながら、とにかく文章が上手い。「俺はなぜ、犬なのだ」という一文なんて、哀愁が溢れ返っている。堪能しました。@RayShibusawa『バンドマンとは付き合うな』文学フリマの三次会で、卓から卓へとウロウロさまよい歩くのが好きなので、みすてーさんが油断した隙に席を奪って、山本清風さんと、バンドをやるのはセックスしたいからであって、セックスしたいからバンドをやるんですよみたいな話をしたところ、恐ろしい共感を呼んで、にわかにセックスセックス連呼する卓になってしまったという話は、比較的どうでもよくて、阿佐ヶ谷さんは、なるほど確かに格好いいと感じました。
以上、気が向いたら追記します。