雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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清涼院流水『カーニバル』

 清涼院流水の『カーニバル』を読みました。
 読了記念に他の人の感想を見てみようとググってみたのですが、今ひとつ。なんだかどこもかしこも画一的な内容で*1
 仕方がないので自分で書こうと思いました。
 ちなみにネタバレです。
 ですがいきなりネタバレに入るのはアレなので、前口上らしきものをやってから、本格的にレビューに入ろうと思います*2

38 コズミック (清涼院流水) 912 54.4%
39 ジョーカー (清涼院流水) 753 44.9%
40 カーニバル・イヴ /一輪の花 (清涼院流水) 523 31.2%
41 カーニバル /二輪の草・三輪の層 (清涼院流水) 448 26.7%
42 カーニバルデイ /四輪の牛・五輪の書 (清涼院流水) 414 24.7%
43 19ボックス /Wドライヴ 院 (清涼院流水) 478 28.5%
44 秘密屋 赤 (清涼院流水) 322 19.2%
45 秘密屋 白 (清涼院流水) 316 18.8%
46 秘密室ボン (清涼院流水) 335 20.0%
47 エル 全日本じゃんけんトーナメント (清涼院流水) 425 25.3%
48 ユウ /億千万の人間CMスキャンダル (清涼院流水) 257 15.3%
49 トップラン第1話 ここが最前線 (清涼院流水) 328 19.6%
50 トップラン第2話 恋人は誘拐犯 (清涼院流水) 279 16.6%
51 トップラン第3話 身代金ローン (清涼院流水) 258 15.4%
52 トップラン第4話 クイズ大逆転 (清涼院流水) 252 15.0%
53 トップラン第5話 最終話に専念 (清涼院流水) 246 14.7%
54 トップラン最終話 大航海をラン (清涼院流水) 237 14.1%
55 トップランド2001 天使エピソード1 (清涼院流水) 153 9.1%
56 トップランド1980 紳士エピソード1 (清涼院流水) 128 7.6%
57 トップランド2002 戦士エピソード1 (清涼院流水) 116 6.9%
58 みすてりあるキャラねっと (清涼院流水) 163 9.7%

 上記はリッパーさんが作った「メフィスト何冊読んだ?」からのコピーです。38〜46が講談社、49〜57が幻冬舎、58が角川スニーカーです。タイトルがノベルスと文庫とで著しく変わってしまっているのは、スラッシュで区切っているようです。
 自分が読んだのは文庫版なので、レビューするのは『カーニバル 一輪の花・二輪の草・三輪の層・四輪の牛・五輪の書』ということになります。
 清涼院流水は『コズミック』で第2回メフィスト賞を受賞し、講談社からデビューしたミステリ作家。その後に上梓された『ジョーカー』と併せて「JDC第1期・コズミックジョーカー」などと言われたり言われなかったり。『カーニバル』は文庫版では5分冊ですが、ノベルス版では3分冊なので、「JDC第2期・カーニバル3部作」などと言われたり言われなかったり。来年1月に『彩紋家事件』が上下分冊で刊行されます。
 清涼院流水が書いたものの他に、「JDCトリビュート」というのがあって、西尾維新舞城王太郎のふたりが、JDCの設定を借りて1作ずつ書いてます。タイトルは『ダブルダウン勘繰郎』と『九十九十九』。
『トップラン&ランド』の方は、『ラン』が毎月発売され、半年で完となるシリーズで、『ランド』の方は半年ごとに発売され、3巻目で打ち切りとなりました。*3


 ここからネタバレに入ります。


『コズミック』は、密室卿を自称する犯人が「1年に1200人殺す」と声明を出し、毎日3人か4人ずつ殺していくというもの。被害者は背中に数字を書かれ、何番目の被害者か一目瞭然という親切設計。不可能殺人と見せかけて、実際は被害者とその周囲にいる人間による狂言自殺。犯人はこの集団自殺宗教の教祖的な人物で、松雄芭蕉……ではなく卑弥呼……でもなく曹操、という設定。
ジョーカー』は、館の中でミステリここに極まるというかのように、ガジェット・ユーモア・ウィットに富んだ不可能連続殺人が行われるというもの。犯人はアーティストを名乗り、様々な見立てやアナグラムを行いつつ殺人を重ねていき、犯人が、裏の犯人が、真犯人が、裏の真犯人が、真の真犯人が順々に暴かれていき、最後に犯人は「誰でもないのである」と締めくくられる。
『カーニバル』は毎日400人が死に、その中で不可能としか思えない現象が世界全国で多発するのですが、それらのすべては未来の技術を用いたもので、専門的になりすぎてしまい、語ると長くなるし、どうせ理解できないだろうかという理由で割愛されます。犯人は冬扇夜美子ことイヴで、彼女は未来からやってきたという設定です。


 さて、読んでないので不明ですが、誰かの解説の何処かに書かれているものを重複するかもしれませんが――『カーニバル』は新本格ファンへ向けて書かれているように感じられました。自分は新本格という呼ばれるジャンルを、ほとんど読んだことがないのですが、持っている印象と言えば「謎をロジックで探偵が推理する」ではなく「謎を探偵が推理する」ものです。
 つまり、作者が神の視点で書いた、犯人が判るか判らないかぐらいの小説――読者と同じか以下の情報しか与えられていないのに、犯人を推理してしまう探偵が登場する小説――というのが、自分の中での本格。対して新本格は、ミステリを書く上で作られた密室・見立て・クローズドサークル、そういったものがメインになり、いかに事件が謎めいているか、いかに探偵の推理が卓越しているか……というような部分に焦点が当てられています。
 その風潮*4に乗って現れたのが、例えば京極夏彦だったり、西尾維新だったりするのではないだろうか。
 で、『カーニバル』は新本格の中でも、そういったキャラ萌え要素を多く含むミステリのファンへ向けて書かれている物だと思う。


 例えば毒薬。
 自分はあまり毒薬に詳しくない。唯一、知っているのはミステリだけでなくドラマなどにも多く使われる青酸カリ。刑事役のごついおじさんとかが「む、アーモンド臭がするな」とか言うシーンとか。
 実際、毒薬や毒物が凶器だとしたら、読者的には「凶器は毒だった/毒殺でした」ぐらいの情報が与えられたら、それで充分だと思う。「確かに一見、毒Aを使っているようですが、犯行当時、エアコンの電源はついており換気は行われていたのです、よって毒Bでしょう」「待ちたまえ探偵君。毒Bを使ったのならば、死んだ時間がもっと遅くなるはずだ、ここは毒Cしか考えられない」「ふたりとも待ってください。私はあの人が、毒Dを持っているのを見ました」「なんだって、毒Dは日本にはないはずだ!」こんな謎解きを、専門用語連発しつつやられた日には、即放り投げると思うのだがどうだろうか?
 後、電車のアリバイ。
「ダイヤを見る限り、容疑者では間にあいませんね」「あの日の電車は事故で少し遅れたようですが」「よく見たまえ。この電車が遅れたとしても、この電車に乗れなければ間にあわないことには変わりない」「じゃあ、ここからここを、車を使って移動したというのは?」「そこの高速は、その日、渋滞だ」「あ! 電車で行くより、少し戻ってから飛行機を使ったほうが早く着きますよ!」「容疑者は高所恐怖症だ」「嘘かもしれませんよ」「閉所恐怖症でもある」「嘘かもしれませんよ」「乗り物酔いが酷いらしい」「嘘かもしれませんよ」「ううむ……」
 長くなってきているのに、何が言いたいのか見えてこないので、単刀直入に言ってしまうと、「ロジックなんてどうでもいい、探偵が格好よく事件を解決してくれたらいいんだ」と思っている読者に「それじゃあ、お前らの大好きな格好いい探偵と凄い謎を書いてやるよ」ってな具合に書かれたものが『カーニバル』ではないでしょうか。


 例を挙げてみよう。
 JDC総代にして、S探偵のひとりである鴉城蒼司は、一瞬にして京都のJDCビルから、ロシアの人工衛星ミールに飛ばされます。瞬間移動です、かなり凄い謎。どうやってやったのか気になるところですが、これを大真面目に真剣に学問知識を要求しつつ専門用語を連発しながら説明されても困る。読者は探偵が格好よく推理するところを読めればそれでいいわけだから、「鴉城蒼司は未来の超絶技巧でミールに瞬間移動させられたのである! 具体的な方法は割愛する!」で充分なのではないでしょうか。キャラ萌えで読んでいる人にそれ以上は不要だし、蛇足。


 霧華舞衣、浮悠香澄水、ブラックルーク、彩紋寺浄華、九十九十九、サムダーリン雨恋やS探偵をはじめ、多くの探偵が途中で死んでしまったことには驚いた*5。解決編における九十九邪鬼の言葉を信じるならば、殺された・死んだのは獣人(=本を読まない人/速読)だけで、神人(=本を読む人/精読)はひとりたりとも死んでないことになる。となると、作中における『コズミック』『ジョーカー』の真の著者であるブラックルークや、わりと読書家の九十九十九が死ぬのはちょっと不自然じゃないかと思わなくもない。
 また龍宮城之介ファン*6に殺された彩紋寺浄華と、物語の途中で呆気なく殺され、後半は回想すらされなかった九十九十九なんかも印象的じゃないだろうか。「お前らの信じている探偵だって、不死じゃないんだ」みたいな清涼院流水の呟きが聞こえてこなくもない。


 比較的楽しめた――というのが正直な感想。
 確かに「一輪の花」は半月ほど、「二輪の草」は11ヶ月ほどかけて読んだが、「三輪の層」「四輪の牛」「五輪の書」は、1週間もかけずに一気に読んだ。
ジョーカー』が好きなので、終盤、龍宮城之介が大量のアナグラムを引っさげてやってきたシーンは楽しかったし、ピラミッド水野が好きなのでその迷推理の正体を知ったときには軽く感動。後、刃仙人が主人公のシベリア編や、レムリア・サリバンの「こいつ/彼/彼女」は会話文なのに地の文みたいで読者に親切だと思った。他にはメイル、鈴風鵜ノ丸、犬神夜叉、クリスマスあたりも。
 しかし、まあ。ロジックやトリック目当てで読んだ人には、とんだ地雷だったと確信する。言わば割愛されてしまった具体的な方法こそが、そういう読者にとっては主題だったわけで、そこに来ると『カーニバル』はお祭り騒ぎの悪戯大作。もはや、笑うしかないだろう、はは。
 てーか、ミステリの読者なんて、ごく一握りの人間だし、その中でキャラ萌えだとか言っているのは、さらに一撮みなんで、しかも清涼院流水なんて鬼っ子に手を伸ばそうなんて奇特な人間は極々だろうし、この企みは商業的には、失敗なんじゃないかなーと思う。
 清涼院流水を読んで外れだと思い、「もっとロジックを! もっとトリックを!」と思ったのなら、最近の作家なんぞに手を出さずに、ひたすら古典を読みつづければいいのでは……。


 ところで最初の清涼院流水著作リストの、読破率の項目が面白いです。
 第2回メフィスト賞受賞作というのもあるのか、『コズミック』は912人で54%。ふたりにひとりは読んでいます。これは『ジョーカー』→『カーニバル』と移行していく中、『カーニバル』を読みきったのは25%、4人にひとりは読んでいる計算。……すげえ。
 てーか、本当に凄いのは、そんなに読んでいてネットやっている人がいるということ。意外に多いんですね。


 まあ、そんな感じでおしまい。
 彩紋寺浄華と九十九十九のふたりが殺された理由*7は気になるので、何かアイデアがある人は耳打ちしてください。……耳打ち?

*1:ひとつだけずば抜けて面白い考察をしているサイトがあったのですが、履歴を確かめないと何処だか判らず、UN〜というサイトだったと思います

*2:ネタバレするのはJDCシリーズ全部

*3:『ランド』は「エピソード1シリーズ」とも言われ、そう言えば森博嗣は「事件簿1シリーズ」を持っていたなあ、と夢想

*4:論理が重視されなくなり、謎と探偵が主題になってきている……というのは自分の考えで、その風潮が実在するかどうかは不確定

*5:サムダーリンは擬似的に生きているけれど、メイルと同時刻に死ぬ設定だったらしいし

*6:の皮を被った犯人

*7:勿論、作中における動機の話をしているのではなく、どうして作者である清涼院流水がふたりを不要と感じ、物語から切り捨てたか