雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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本格ミステリ04 二〇〇四年本格短編ベスト・セレクション

 2003年に発表された短編小説と評論のアンソロジィ。『01』『02』『03』に続く四回目となる今回は、十二作からなっている。
 横山秀夫「眼前の密室」調和的で完成度の高い作品。「終身検死官シリーズ」というシリーズにおける一冊であるためか、登場人物の説明も特になく、いきなり始まってしまうのには閉口したが、難なくまとまっていると思う。青木知己「Y駅発深夜バス」これは中々、面白かった。第一部では深夜バスの持つおどろおどろしさを、ホラー小説的な手法で描いているのだけれど、これが第二部に入ると一転、見事なまでにミステリの中に組み込まれてしまう。手際よく謎が解体されていく様と、最後の一文に静かに震えた。鳥飼否宇「廃墟と青空」密室トリックは充分に練られているし、解決編の場面も実に雰囲気が出ていてよかった。けれど、ロックについて語りすぎなのと、動機が不鮮明なのが珠に瑕。法月綸太郎「盗まれた手紙」登場人物の名前がカタカナであったことに加え、徹夜明けの妙に高いテンションと眠気がすれ違ったときに読んでしまったので殆ど頭に入ってこなかった。手紙を盗み出す方法は、面白かった。芦辺拓「78回転の密室」1930年代を描いているのだけれど、それが抜群に上手い。乱舞する漢字は、意味の分からないものばかりだが、雰囲気を盛り上げるのには一役も二役も買っている。事件の真相も、どこか哀愁漂うもので実に良かった。石持浅海「顔のない敵」対人地雷を取り扱った社会派。作者の主張が確かにそこにあって、威力のあるブローだった。柄刀一「イエローロード」これには骨抜きにされた。田舎のバス停で一日に三本しかないバスを待っていたら、隣に腰掛けた老人が「ちょっと私の話を聞いてみませんか」と何気ない仕草で語り聞かせてくれたような物語。押し付けがましくないさりげない筆致に、整然とした推理が犯人へと導く鮮やかな手腕に、そして朴訥な好意とに、乾杯したいぐらいに良かった。東川篤哉「霧ケ峰涼の屈辱」はははは、これは面白い。カープファンでミステリマニアの主人公による一人称は、お茶目な学生らしさに満ち溢れていて、読んでいて何度も笑ってしまった。この主人公は今まで読んできた学園ミステリの中では、一番、学生らしい。親近感が持てる。トリック自体もやや不自然だけれど、なるほどと頷けるし。良かった。高橋克彦「筆合戦」この作品には、山ほど伏線が敷かれているのだが、見事なのはそれが伏線であると見抜けないようになっている点。最後の最後で、まずそれらが伏線だったと明かされ、さらに全ての伏線を束ねあげてひとつの真実を示すのだが、その様が巧みすぎる。匠の領域。北森鴻「憑代忌」これは難解だった。あまりにミステリ然としていて、ミステリとしては評価できるけれど、ひとつの短編としてはやや力不足なのではないかと思う。アプローチも短いし、もう少し長く読みたかった。松尾由美「走る目覚まし時計の問題」いいねいいね。そろそろのほほんとした日常の謎が欲しいなと思っていたら最後で来た。発表順の収録だから偶然なんだろうけれど、最後にこれが来たのは良かったと思う。面白かった。波多野健「『ブラッディ・マーダー』/推理小説はクリスティに始まり、後期クイーン・ボルヘスエーコ・オースターをどう読むかまで」難解。タイトル通りのことが書かれているわけだが、てんで分からなかった。残念。(講談社ノベルス