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邪馬台国はどこですか?

邪馬台国はどこですか? (創元推理文庫)

邪馬台国はどこですか? (創元推理文庫)

 雰囲気としては高田崇史の『QED』シリーズと共通する部分があるように思う――本書の舞台は、カウンター席だけしかない地下一階のバー。登場人物はバーテンダーの松永に常連客の三谷教授とその助手静香、そして謎の男宮田六郎の四人のみ。物語はこの寂れたバーのカウンターから一歩も動かず、場景描写を最低限に留め、四人の会話によってのみ進行する。基本的な流れとしては、宮田が歴史上の事実とされてきた事項に対し突飛としか思えない仮説を発し、常識と定説を知り尽くした静香が反論を試みるというもの。三谷教授は柔軟な思考で、宮田の口上を促しつつも議論には積極的に参加せず、バーテンダーの松永は客同士の会話に興味をそそられつつも、挑発的な宮田の態度と爆発寸前の静香にあたふたする。短編連作の形を取っている。
「悟りを開いたのはいつですか?」実は仏陀は悟りを開いていないのではないかという仮説。初っ端からぶっ飛んでいる、仏教を根底から引っくり返すような発言ではないだろうか。
邪馬台国はどこですか?」標題作にもなっている作品で、邪馬台国が実は東北にあるのではないかという仮説。
聖徳太子はだれですか?」推古天皇聖徳太子蘇我馬子の三人が、実は同一人物であるという空前絶後の仮説。この短編集の中で、一番、面白く読めたのがこの作品。到底ありえない結論で幕が落ちるのだが、収録されている作品群の中では、知っている名前も多く親近感が沸いたというのもあるが、三人が同一人物である証拠――あるいは三人を同一人物にしなくてはならなかった動機が“歴史を闇に埋もれさすため”という部分に魅力を感じた。どうにも黒歴史と言うのは、好奇心を抱かされます。
「謀反の動機はなんですか?」織田信長が自殺をするために、明智光秀に謀反を起こさせたという仮説。これは、ここに提示されている情報が確かならば、あるいは真実に手を届かせているのかもしれないと思わせてくれた。他の作品は基本的に、もっともらしいものではあるもの「いや、よく出来た冗談だな」という部類なのだが、これだけはあるいは真実かもしれないな、と。
「維新が起きたのはなぜですか?」坂本竜馬を殺した暗殺者の正体を暴くのかと思いきや、明治維新の黒幕は誰かという趣旨。ミステリではありふれた手法を使っており、今ひとつといった感じ。
「奇跡はどのようになされたのですか?」キリストとユダが実は同一人物なのだという仮説。これも今ひとつ。
 本編を読んでいる間はどうにもうさんくさい空気が漂い、薄っぺらい登場人物と合わさって味気ない感じがしないでもないのだが、解説を読むと途端に本書が面白いもののように感じられるのだから不思議だ。