雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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人間は考えるFになる

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 お茶の水女子大学の教授でお笑い哲学系エッセイを数多く書いている土屋賢二と、某国立大学工学部助教授でミステリを書いている森博嗣の対談本。『IN★POCKET』に掲載された対談と、土屋賢二による書き下ろし短編と、書き下ろし対談の三つから構成されている。目玉となるのは、やはり前半のふたりの対談だろう。森博嗣ファンならば土屋賢二の著作の一冊や二冊、既に読んでいてもおかしくはないので、森博嗣好きである→土屋賢二も知っている→二倍楽しめる、という論理が成立する……かどうかは不明。自分は森博嗣から土屋賢二に入って、そう嫌いでもない、むしろ好きぐらいなので少なくとも二倍は楽しめた。
 全部で六つに分かれている対談だが、一番、面白く読めたのは六つ目の「(売れる)ミステリーの書き方」。これはこの本の企画として短編小説を書くことになった土屋賢二が、森博嗣にアドバイスを貰うという流れなのだが、それが面白い。土屋賢二の方は、いたって真面目に質問しているのだが、森博嗣が真面目に答えているとは一般人にはとても見えないのだ。いや、ファンからすれば、森博嗣の科白の端々に日記やエッセイで語られた理論が見え隠れ、非常に真面目かつ分かりやすく説明してくれているのだけれど、その割りに言葉数が非常に少なく、結果、分かりづらいのだ。その分かりづらい説明をなんとか消化し、執筆活動に役立てようとしている土屋賢二が不憫でならない。
 土屋賢二の処女作にして書き下ろし短編は「消えたボールペンの謎」と言う。授業で百万円の値打ちがあるといったボールペンが消え、その犯人を探すために大学関係者に土屋教授が助手と共に調査を行うと言った内容なのだが……一人称で書かれており、かつ作中に大量にぼやきが入っているため、限りなく土屋賢二がいつも書いているエッセイに近いように感じられた。ミステリとしては、正直いかがなものかと思うが、土屋賢二好きであれば悪くないだろう。