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名探偵の掟

名探偵の掟 (講談社文庫)

名探偵の掟 (講談社文庫)

 これは相当に愉快。連載ミステリの登場人物たちが、作者の手によって踊らされつつも舞台裏で愚痴ったり文句を言ったりしているのを、小説化しているという凝った構造。名探偵の見せ場を作るために、敢えて犯人でないものを尋問しないとならない愚かな警部。誰も興味を持っていなかったとしても、登場人物を一同に集め、懇切丁寧にトリックを解説しなければならない名探偵。その名の通り、名探偵の掟に従う登場人物たちが、自らの苦労を切々と語っており、実にシニカルで物悲しい。
 十二編の連作短編の形式を取っており、密室・フーダニット・嵐の山荘・ダイイングメッセージ・時刻表・二時間ドラマ・バラバラ殺人・???・見立て・語り手・首なし・凶器、以上のミステリ的ガジェットがそのままテーマになっている。例えば嵐の山荘では、どうして嵐の山荘で殺人を起こさねばならなかったのか、例えば???では、口にするだけでネタバレとなってしまうトリックとはなんなのか、登場人物たちが本来は持ちえないメタな視点を介し、ミステリのミステリとしてのフィクションを鮮やかに指摘している。どれも小気味よい落ちがつけられていて、それなりに面白い。しかし、毎回パターンが同一のため、面白さは安定しているのものの飛びぬけているわけではなく、プロローグとエピローグに挟まれた十二編の短編を経て「名探偵のその後」に至るまで冗長と言えなくもない。「名探偵のその後」は後日談的な内容で、これが最も本格ミステリの核心に切り込んでいるのだが、はっきり言ってよく分からない。ひょっとしたら成功しているのかもしれない、想像を絶する斬れ味で持って名探偵は掟を、本格ミステリの呪縛を断ち切ったのかもしれない。が、自分にはよく分からなかった。なので判断に窮する。少なくとも、主となる十二編の短編は面白かった。ある程度、ミステリをこなし、その理不尽さが少しでも気になっているならば、本書を読む価値は十二分にあるだろう。