「
上皇がなぜ謀反を起こしたのか探るのだ」。神野
天皇の命に
空海は友人の
橘逸勢と共に
平城上皇と
藤原薬子の周辺を探る。しかし同じ命が
最澄にも下されており、ふたりは知恵比べをすることになる……と裏表紙のあらすじに書かれているが、実際に
空海と
最澄が知恵比べをするのは終盤も終盤で、しかも本書のメインではない。本書は薬子と
空海の対決や、薬子が
平城上皇に謀反を進め、
平城上皇が謀反を決意し、失敗し、と長々とドラマを描いているのだ。自分はどちらかと言うと、
こちらの方が楽しめた。後半、しつこいぐらいに操りが登場する。彼は彼女に操られており、彼を操っていた彼女は彼に操られており、彼を操っていた彼女を操っていた彼は――としつこいぐらいに操りが操られに操られる。正直、ここまで操りを強調しミステリっぽくせずとも、本書を最初から読めばその切羽詰った動機には充分納得できるし、それが操りを生んだと言われたらすんなりと受け入れることができる。そう、意外なことに、本書にはしっかりと人間ドラマが盛り込まれているのだ。少なくとも自分はそう思った。けしてレベルの高いミステリと言うわけではないけれど、最低レベルのラインは間違いなくクリアされているし、期待度が低ければ充分に満足できるだろう。良かった。