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変身 (講談社文庫)

変身 (講談社文庫)

 物足りない。ある温厚な青年が脳移植手術を行ったが、術後、徐々に自分の性格が変化してゆくのを自覚し、何とかして元の自分を留めようとしたり、本当のドナー(提供主)を探そうとしたりする。と、実に真っ当に物語が進んでしまうのだ。最後にミステリ的な仕掛けや叙述トリックがあるわけでもなく、実に真摯に取り組まれてしまっている。でも、だとすれば、これは物足りない。
 中盤までは楽しく読めた。無気力な日々を送っていた主人公は、ある日、唐突に活動的になってしまうのだ。仮に秋山の脳が誰かに移植されたら、その人は自分の身に溢れかえるあまりのバイタリティに困惑することだろう。そんなことを楽しく夢想しながら読み進めた。しかし、そこから徐々にサスペンスタッチに移っていって、後はもう予想通りなのだ。結末が、ただの感動物やサスペンス物に落ち着いてしまっていないのはさすがに見事だが、森博嗣柄刀一だったら、もっと洗練されているのだろうなあと思ってしまった。まあ、最後はやっぱり泣きそうになったが。