- 作者: 津原泰水
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2002/03
- メディア: 文庫
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当初は、てっきりエドガー・アラン・ポー『アッシャー家の崩壊』に対するオマージュだと思ったのだ。ホラーかミステリか、どうせ蘆屋家に伝わるが因縁がどうのといった、ドロドロしたものが延々と繰り広げられると思ったのだ。だが、違った。
本書はどうやら井上雅彦編『異形コレクション』に掲載された短編を集めたものであるらしい。確かに収録されている、八編のうち最初の四編は、いかにもそれっぽい。実際にありそうな都市伝説をそれっぽく仕立てていたり、いかにもホラー作家が好きなテーマをそれっぽく仕立てていたり、文章が上手いからそれなりに読ませるなと思っていたのは、最初の四編まで。「超鼠記」を読んで、秋山は電車の中にも関わらず、あまりの戦慄に震えが止まらなかった。恐怖、ではない。畏怖でも、驚愕、でもない。その作品を読んで、秋山が触れたのは未知の感情だった。なんだか、よく分からなかったが、とにかくすごいと感じた。そして、きっと収録されている作品群の中で、一番、面白いのはこの作品だろうと確信した。この確信は僅か十数分で裏切られる。
六編目の「ケルベロス」は最後の一行が視界に入った瞬間、もう嗚咽を堪えられなかった。いくら涙を流しても流したりないぐらいの哀切。真実、凄惨極まりない。七編目「埋葬虫」これもまた筆舌に尽くしがたいほどに素晴らしい。これはもう「超鼠記」以降、何かおかしいスイッチが入ったようなものだ。読むたびに「きっとこの作品こそが、この短編集のベストに違いない」と確信し、そして裏切られる、その連続なのだ。段々と感情が麻痺してくるのが分かるぐらいだ。そして八編目にして最後の作品「水牛群」……この短編に関しては、この短編を読む以外の方法では、何一つ説明できないように思う。それほどまでに完璧で、完成されているのだ。あー……、なんだか言いたいことの一割も表現できない。これだけ言葉を重ねて、秋山がなにを言いたかったかというと、
津原泰水は文章が上手く、面白い小説を書く人。もっとこの人の作品が読みたい!