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蒼ノ下雷太郎『キミとボク、仮面人間』


キミとボク、仮面人間
オンライン文芸マガジン『回廊』第11号所収


作者:蒼ノ下雷太郎
分量:原稿用紙50枚
発行日:2007年6月15日
発行元:文芸スタジオ回廊

 主人公にはある特殊な能力があった。それは人が誰しも被っている“仮面”を見るという能力。テレビに写っている男性、記者会見で頭を下げている彼らはしかし本心から謝っているのではなく、謝罪という仮面をつけている。気さくなクラスメイト、しかし彼らも仮面をつけている。嘘と仮面に満ちた人間社会にうんざりしていた主人公は、ある日、公園で仮面をつけていない少女と出会う……。
 自意識をテーマにしたのであろう青春小説。仮面をつけていない少女との出会いと、彼女との対話のなかで成長していく主人公が描かれているのだが、やや力不足の感は否めなかった。「仮面をつけていること」が「他者に対する不審」にもう少しうまく繋がっていれば、思春期の自意識を描いたものとして、優れたものになりそうだっただけに残念。とは言え、最終章で明かされるトリックは、予想していなかっただけに盲点であり、意外な方向から降ってきた結末は心地よいものだった。原稿用紙50枚と長いが、一文ごとに改行されているのでさくさく読めるだろう。