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星見月夜『傘』



オンライン文芸マガジン『回廊』第12号所収


作者:星見月夜
分量:原稿用紙40枚
発行日:2007年8月15日
発行元:文芸スタジオ回廊

 傘を叩く雨粒の音。路面を濡らす雨粒の音。濡れた路面を踏みしめる、長靴の音。傘を差して、雨の中を歩くことが好きな主人公は、あるとき雨の中、傘を差さずに走っていく男子の姿を見た。傘を差さずに雨の中を行くこととは? 思い悩む主人公に友人が声をかける「好きになった?」。主人公はちょっと考えて「好きになるほど、良く知らないよ」と答えた……。
 非常に小気味好い短編。少女漫画のような恋愛小説が展開されるかのように思わせておいて、実はスマートな青春小説という構成。その素っ気ない、しかし狙いすました筆致は、憎たらしいほど上手くて、ある種の悔しさに似た感情まで抱いてしまうほどだ。個人的に気に入っているのは最後の一行。この一行が全体をさらにきゅっとまとめているように思う。素晴らしかった。短いだけでなくタッチも繊細かつやわからかなので、星見月夜さん入門に最適の一編。