昨日はAtoZ読書会の10月例会でした。課題本は第8回日本SF新人賞受賞作である樺山三英『ジャン=ジャックの自意識の場合』。発売してすぐに読んでいたので、例会の直前にかんたんに再読してから挑みました。

- 作者: 樺山三英
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2007/05
- メディア: 単行本
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まず最初にid:fujigawaさんから、物語の構造に対する疑問が提示されました。
本書は全6章構成で、ぼくによる一人称パートと、J・Jという謎の人物から送られてくる書簡パートが交互に来ます。秋山は6つの章が、それぞれ別の平行世界を描いたものとして読んでいたのですが、fujigawaさんはJ・Jの手紙を論拠に、あるひとりの少年の複数の少年の記憶が移植され、それらがランダムに表層に浮かんできているのを描いたのではないかと思われたそうです。途中から物語を理解することを放棄し、字面から喚起される幻想的であったり衒学的であったりする風景を楽しむように読んでいたのでどうやら読み飛ばしてしまったようですが、fujigawaさんの考えは帯の説明文とも一致しますし、非常に説得力があるように感じました。
その後、fujigawaさんは記述を詳細に読みこみ、時系列を整理すれば、かなり容易に物語の構造が理解できるのではと続けましたが、それには反対しました。と言うのも、もし著者がすべてを計算してやっているのであれば、物語の全編に配された伏線や謎の数々を、結末部分において収束させるのではないかと考えられるからです。もちろん、敢えてそうしなかったのだとも考えられます。しかし、そうだとしてももう少し真相の幅、つまり考えられる真実を限定させるのではないでしょうか。最初に書きましたとおり、本書はほんとうに自由度の高い小説で、あらゆる読み方が許容されてしまうように思います。読書会中に出た読み方としては、6章がそれぞれ仮想現実になっているだとか、すべてJ・Jの妄想というのもあり、他にもいくらでも言えてしまうので、言い始めればきりがありません。ここまで来ると正直、多様な読み方ができる小説と言うより、混沌としていると言うか、行き当たりばったりで書いた小説とすら思えます。とは言え、SF的な読み方をすると実はシンプルだったりするのかもと思っていたのですが、幸いid:c-peteさんに同意していただき胸を撫で下ろしました。
ここから本書がSFか否かという話に移り、あまり興味ないなあと思っていたのですが、たしかc-peteさんが「本書はエンターテイメントとして読めば面白いけれど、SFとして読むと面白くないよね」とおっしゃっていて興味深いなと感じました。ひとによってSFに期待するものは異なるでしょうが、確かに本書はSFのコアな位置にはいないように思います。そして「面白いSFが読みたい!」と思って書店に行ったひとが偶然、本書を手に取って、買って、読んでみたとして満足できるかどうかと問われると、確かにかんたんには頷けません。ちょっと斬新な視点でした。
ここで最後まで読み終えていなかったid:MeiseiSFさんが読了されたので、話を振ってみたところギャグとして読んだという答えが返ってきて驚きました。詳しく話を聞いてみると、物語内世界を狂気的な空間にさせるために用意された設定、たとえば生徒会やゾンビなどが笑えて仕方がなかったと。作中の最後の方では、木の二股を使ってオナニーをする場面があるのですが、そのシーンなんて主人公は真面目かもしれないけれど、傍から見るとかなり滑稽で笑えるとおっしゃってました。これも確かに言われてみれば頷けます。そのシーンは印象的で秋山も覚えていますが、どちらかと言うとすでにその時点で物語にどっぷりと浸かり、その狂気に毒されていたのであまり不自然さは覚えませんでした。もちろん「ああ、狂ってるなあ」とはいつも脳裏で考えていましたが「このせかいは、そういうせかい」と割り切っていた感があります。なのでMeiseiSFさんの現実世界にいながらにして物語を読むという姿勢は、言ってみればメタ的な読書だなあと思ったりしました。
その他、表紙のイラストが流産もしくは月経をモチーフにしているのではないか、どうしてサリンジャーなのか、聖書的な観点から見ると天使の正体は、といった議論が交わされ面白かったです。
次回の課題本はクリストファー・プリースト『双生児』に決まりました。
値段と分厚さに今から挫けそうですが、ミステリ読み間での評価も高いので、がんばって挑戦してみようと思います。

- 作者: クリストファープリースト,Christopher Priest,古沢嘉通
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2007/04
- メディア: 単行本
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*1:時系列は適当です。