年末から少しずつプレイしていた『シナリオの鉄人』ですが、先ほどようやくクリアし終えました。以下、寸評など。
寸評
ライ麦狼「シナリオの鉄人120%」シナリオの鉄人のレギュレーションを紹介するという、盲点を突いたような作品。随所に小ネタも仕込まれており良かったです。きっと、この一作は『シナリオの鉄人』20作のなかでも、最もプレイされる率が高いような気がします。アイデアの勝利、ですよねえ。
おかゆ@スタジオ蜜柑「Graduaters! 〜グラディエイターズ!〜」いやあ、これは断然、面白かったです。過去編と現代編はテンポよく切り替えられ、途中に挿入される変なテンションのラジオにも笑いました。最初から、ある種の予感はありましたが、まさにド直球な結末には、ある種の戦慄すら覚えました。20作中、一、二を争う丁寧な作りでした。
安眠枕@カリピロウ「luna」なんとなく続き物な予感でした。屋上の背景画像を逆転の発想で使っているのは見事だと思いましたが、やや一発ネタに過ぎるような気もします。
凪原みどり@Glasses!「Spangle」なるほど、これは面白いです。兄弟を主人公に、ふたりのヒロインとの、ふたつの物語を見せているのですが、面白いところでリンクしていたりして中々に良かったです。ただ、ちょっと性格が掴みきれませんでした。弟は前半は理解できましたが後半は理解できず、兄は前半は共感できず後半になって共感できました。
ちょけ「ヴェクサシオン」申し訳ありませんが、これは途中でお手上げでした。なんとなく凝ったことをやろうとしているという気配は感じましたが、何分、文章がまるで頭に入ってきませんでした。
た〜ゆ〜「さよならいと」まあ、面白かったと思います。やや設定が中二で、展開がご都合主義でしたが、改めて振り返ってみると、そんなに悪くもなかったような気がします。
future extra@Ark「シナリオの鉄人」てっきり文芸部女子二名がシナリオ勝負をするのかと思いきや、もっと体育会系おばかな乗りでした。ラーメンが食べたくなる、良いゲームですね。
礼門Z「シナ鉄超特急。」これは面白かったです。エフェクトを多用したり、メタな発言が飛び出したり、レギュレーションや素材にけちをつけたり、色々とハチャメチャなのは確かですが、総合的に考えると間違いなく面白かったです。
D.S.「セカイハイタ」これは凄いです。文章が肌に合わず、読み飛ばしながら進めていったところ、中盤でまさかの展開を目の当たりにして仰天しました。こんな発想、どこから出るものでしょうか。残念ながらクリアは放棄しましたが、これはちょっと捻ると、一気に化けそうな作品だと思います。
かわうそうータン@サカナ・ノベル「舞踏」以前に感想を書いたので割愛。
シャーリーン「真夜中の恋人」いやー、申し訳ありません。これ、クリア放棄しました。とりあえず、エンディングは2種類まで見たのですが、全部は諦めてしまいました。
はと@noncolor「ムラタク」うーむ、これは……。会話それ自体はウキウキと面白かったのですが、物語的に驚くほど発展性がないのですよね。もしかしたら、苦手な作品かもしれません。
さかいともこ@T.Y.G. ZONE「陽だまりの家族―深夜のホームドラマ―」ちょっと悪趣味ですね。世界観それ自体は面白く、風刺的な一面もあって、それなりに笑えはするのですが、記憶に残っているのは、キッチュなシーンばかりです。ちょっと苦手です。ただ、最後のエンディングに見られる夫婦像は、ほんわかしていて嫌いじゃありませんけれど。
青八木 景@Fortune Bell「恐れていたバリオラ星人の地球侵略作戦」これは、激烈に面白かったです。タイトルを見て、ギャグ系なのかと思ったのですが、その予想は半ば当たり、半ば外れました。確かに、この作品はギャグです。根底に横たわっているのは、間違いなく笑いでしょう。でも、その反面、しっかりと物語が作りこまれているのです。さらに落ちまできっちりつける技量まであります。面白かったです。
さよのすけ@Ray「月夜に処女は恋文を濡らす」うーむ、これも、また悪趣味な。システムの完成度が高く、全エンディングをクリアしてからの仕掛けまで含めて面白かったのですが、物語それ自体は、どうしても好きになれません。ただ、シナリオ担当があとがきで赤江瀑に言及していたので、嫌いではありません。
虎舟和彦「幻幽の夜」タイトルの格好よさに反し、なんとも肩透かし感のあるストーリィ。ちょっと薄すぎるような気がするのは、他の作品をプレイした後だからかもしれません。
KaTana「中夜の考察」以前に感想を書いたので割愛。
銛鯱丸@グリーンティミルク「日食の日の、彼女と彼女とボク」いやあ、面白かったなあ。振り返ってみると、たいした話ではないのですが、なんだかパンツの印象が妙に残っています。このインパクトをプレイヤに与えたというだけで、もう素晴らしいです。
熊月温泉@三根崎「―――あやしかた」うーむ、秋山の好きなジャンルの作品ではあるのですが、いかんせんノリについていけませんでした。このテンションは、きっと乗れれば面白く、乗れなければ微妙なのでしょう。
総括
使用できる音楽と画像は十六素材のみ。ただし、スクリプトを工夫するのはオーケー、そして効果音の使用は自由。というレギュレーションの穴を突いた作品が多かったように感じました。抜け道の潜り抜けっぷりが必然性に基づいていた作品も幾つかありました。
また、エンディングが複数あるゲームも多かったですね。エンディングリストのようなものがあり、少しずつ迎えたエンディングがリストされていくのを見るのは快感でした。ああいうのは、ついつい制覇したくなりますよね。終わった後に、おまけのようなものがついていると余計に楽しいです。
20作から特に面白かった作品を5作挙げたいと思います。
なんとなく気分で、大賞、金賞、銀賞、シナリオ賞、スクリプト賞という感じで。
まず、大賞から。ベストの作品は間違いなく「Graduaters! 〜グラディエイターズ!〜」です。これは文句なしに面白かったです。『シナリオの鉄人』云々以前に、純粋に、作品として、何処までも面白かったです。十六素材の使い方も上手かったですし、たった三人の登場人物も、実に深く掘り下げられ、丁寧に描かれていました。これは、誰がプレイしても、三本の指には入る出来栄えでしょう。
次に金賞。こちらは「恐れていたバリオラ星人の地球侵略作戦」です。こちらも完成度が非常に高かったです、なんとなく海野十三を思わせる語り口調に、最後まできっちりと締める展開の持って行き方は、巧みの技を感じました。と言うか、単純に秋山の好みです。こういう作品、好きなんですよ。
そして銀賞。こちらは「Spangle」です。気持ちのいい青春群像劇とでも言えばいいのでしょうか、ただでさえ少ない立ち絵を、さらに分割して、ふたつのシナリオを書いてしまうという発想だけでなく、完成させてしまうという技量に感服。登場人物に感情移入することは出来ませんでしたが、まあ、それは秋山の問題です。
それからシナリオ賞。これは十六素材を、逆手に取ったうえでシナリオで魅せている作品として「中夜の考察」です。二人分の立ち絵で、三人の登場人物を作り出してしまうというのは驚きましたが、それがそのまま伏線……おっと、これ以上はネタバレですね。レギュレーションや素材を逆手に取ったトリックが、シナリオを映えさせていました。
最後はスクリプト賞。こちらも十六素材しか使えないのに、それ以上のものにしたという作品として「月夜に処女は恋文を濡らす」です。物語それ自体は好みではありませんが、この丁寧な作りこみには感服です。プレイし終えた後も、楽しめる要素が幾つかありましたし、きっちりしているところに感動しました。
最後に
そんな感じで『シナリオの鉄人』でした。
募集段階、どんなゲームを作ろうかなと頭を捻っていたときから、応募された20作すべてをプレイし終えた今に至るまでずっと楽しかったです。良い企画だったと思います。そんなにしょっちゅうあると大変ですけれど、2年に1回くらいのペースで開催してくれると嬉しいですね。