雲上四季

本と涙と謎解きと、愛しさと切なさとボードゲームと

オーデュボンの祈り

オーデュボンの祈り (新潮文庫)

オーデュボンの祈り (新潮文庫)

 コンビニ強盗に失敗し警察から逃げていたた伊藤は、目覚めると見知らぬ島にいた。江戸以来、鎖国を続けているその島の存在は誰にも知られておらず、妙な人間ばかりが住んでいた。太りすぎて一歩も動けなくなった女性、嘘しか言わない画家、地面に寝転がって心臓の音を聞く少女、騒々しい人間を撃ち殺す詩人。そして、未来を予見し、喋るカカシ。ある朝、そのカカシは首を奪われ全身をバラバラにされ殺されていた。未来を見通せるはずのカカシは、なぜ自分の死を阻止できなかったのか。
 第五回新潮ミステリー倶楽部賞、受賞作。あらすじからファンタジィ的なものを想像していたのだが、史実を織り交ぜたり、現代人である主人公に客観的な視点を与えることで、最低限のリアリティは保持されている。よく言えば慎ましいのだが、悪く言えば冗長で、人によってこの作品を駄作と思うかもしれない。「ここには大事なものが、はじめから、消えている。だから誰もがからっぽだ。/島の外から来た奴が、欠けているものを置いていく」という島に伝わる言葉が、作品を通じて重要な意味合いを持っていて、それが何であるか分かったとき、そして個人的にそれが自分の好きなものであると気付いたとき、この作品の価値は飛躍的に上昇し、首切りの理由も満足がゆくものとなった。読者を選ぶ作品だろう。(2000年12月・新潮ミステリー倶楽部)