雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

オススメの謎解き&ボードゲーム&マーダーミステリーを紹介しています

META-META

 緋踏探偵事務所から派遣され、やってきた夕賀恋史は、颯爽と事件現場に現れると、洗練された動作で犯人を指差し、見事な離れ技で密室トリックを破り、懇切丁寧にアリバイを崩し、完膚なきまでに事件を解決した。そしてその上で、
「真の探偵とは事件を未然に防ぐのです」
 と、意味深なことを言った。


 小石川悠香は、ページをめくる手を止めて、しばし考えた。
 自分の名前とよく似た探偵が活躍する小説ということで買ってみたのだが、そこに書かれていたのは、自分が二ヵ月後に遂行しようと計画していた殺人事件の全貌であった。著者近影の写真にうつった人物に心当たりはない。もしかしたら誰かがベッドの下に隠している計画帳を盗み見て、この作者にネタとして教えてしまったのかもしれない。
――バタン。
 扉が閉められる音に振り返ってみれば、白いスラックス、白いシャツ、白いネクタイ、白い手袋、白い靴下を身にまとい、髪を真っ白に染めた男が立っていた。夕賀恋史だ。
「実行犯は貴女だ、しかし貴女に手を下させた真犯人は他にいる。それは貴方です」
 探偵は華麗な動作で、悠香の背後を指差した。
 振り返った悠香は、ある人物と目が合った。


 その人物は悠香から目を離すと、日本語タイトルを確認してから、次の物語を読むべくマウスを操作した。そう貴方だ。


『匣の中の匣』559文字