親愛なる蓉子嬢へ。
この手紙を君が手にしていると言うことは、私は既にこの世にはいないということだ。
なんて、ありきたりな言葉で切り出してみたがどうだろうか、驚いているかね? 実を言うと、他の誰でもない私自身、驚いている。絶えず人とは違うことを成し遂げようと生きていた私が、こんな常套句を使うなんて。きっと死に行くものの世迷い言だろう。
さて。生前のうちから度々、耳にタコができるほど聞かされていると思うが、今もう一度だけ言わせておくれ。いや、この場合は書く……というべきか。なんにせよ。私は、この言葉を何度言おうが、何度書き記そうが、それが色褪せることのない気持ちだと知っている。だから聞いておくれ。言葉の中に込められた私の気持ちを聞いておくれ。
蓉子嬢。私は君を愛している。
もう君の微笑む姿も、君から感謝の言葉を聞くこともできないが。君に最後の贈り物を用意した。同封した鍵は、私の机の引出しを開けるためのものだ。きっと君に似合うと思う、受けとって欲しい。
さて、そんなところだ。あまり長くなりすぎては、読むのに疲れてしまう。
天国で君と逢える日を待っているよ。
愛を込めて。
君は封筒から手紙を取りだすときに落としてしまった鍵を拾いあげ、それで机の引出しを開けた。
中には指輪が入っていた。
シンプルだけれど洗練されたデザインのそれを摘み上げ、君は呟く。
「お爺さま……」