転がる死体を前に、私は覚悟を決めなくてはならなかった。
素直に罪を認め警察に自首するか、何らかの隠蔽工作を働き罪から逃れるか、それとも――第三の選択肢、私の掌中にあるこの遠い未来の遺産を使うか。
遺産……私の掌の上を転がるそれは、白く艶やかに、てかっていた。ピンポン球よりもひと回り大きく、縦に伸ばした楕円形。中指と親指で抑えて、弾いて回転させれば真っ直ぐに立つこともあるだろうが、そのままではすぐに倒れてしまいそうな形状をしている。ピアノの鍵盤に指を置いた際、ちょうどこれぐらいの隙間が指と掌の間にできれば良さそうだ。
私にこれをくれた未来からの旅人はもう未来に帰ってしまったけれど、あの人はその前に私にこれと、これの使い方を授けてくれていた。使い方、それはとても簡単。ただ、自分の行きたい時間を強く念じて握りつぶす、それだけ。
この現代において、時間旅行という概念は夢物語。この場で私が消え、どこか違う時間軸の中に現れれば、私が罪に問われる可能性はなくなるだろう。
……覚悟を決めた。
私はそれを握りつぶした。
鍵の掛けられた小部屋がある。小部屋には死者が転がっている。死者の隣に割れたばかりの卵が落ちている。
他にはなにもない。