雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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WHO WITCH

 欧州において森とは、奥深く、薄暗く、入れば迷う、魔界のような空間として認知されている。魔女は森の中に住み、森の中には地獄への抜け道があり、一寸先の見えない人生は森に喩えられている。
 その森にひとりの老人が住みだした。
 老人は魔法使いを自称している。聞くものが聞けば老人はすぐに殺されるかもしれないが、幸いにして老人のことを知っている村人は、老人がただの変わり者であることと、老人を殺すためだけに森に入ることが割に合わないことを知っている。
 実は老人は、本当に魔法使いだったのだ。
 好き勝手、実験と研究の日々に浸かりたいが故に、敢えて村人たちに己が正体を明かし、その上で森に住まいを構えたのだ。やがて酸性雨が欧州の森を枯らし、人々の心の中から森が持つ悪しきイメージが払拭されるその日まで、老人は森で暮らしつづけた。
 時が巡り、老人は森を出た。森の外の村で、老人を覚えているものは、誰一人いなかった。老人はそのまま村を通過し、新大陸に渡った。老人が新たな住まいを構えたのは紐育と呼ばれる都市。移民だけで構成された、余所者だけで成り立つ空間。誰も隣に立つ人物の出自を知らないという不思議な都市で、
 老人は今も暮らしている。


『森と都市』515文字