盲目のピアニスト、グランギニョルは両の手を大きく持ち上げると、勢いよく鍵盤の上に叩きつけた。鋭い打鍵がパイプを伝い、太く伸びた音が地上を掃討するように教会内を満たす。高さ四十五メートル、幅六十メートル。想像を絶する鍵盤楽器が、六万本以上もの音菅に繋ぎ繋がれ構築されていた。その光景は荘厳ながらも奇々怪々としていて、潰れて両目を持つグランギニョルに相応しいと言えた。
放たれる音は、騒音と紙一重の音楽。その莫大な破壊力に目を瞑れば、心地よく聞けなくもないだろう。
ステンドグラスにヒビが入った。次いで、木造の扉に裂け目が入り、崩れ落ちた。十字架に掛けられたキリストが床の上に落ちる。天井が落ちてくる。折れた柱がグランギニョルの上に傾いてくる。グランギニョルは演奏を止めない。音菅の幾つかが外れ、まるでグランギニョルの身を倒れてくる柱から守るように、壁を築いた。
数刻の後、パイプオルガンは自壊し、崩落は終わった。
青空の下、グランギニョルはまだ鍵盤の上に両手を躍らせている。もう音は響かない。しかし彼にとってそんなことは関係ない。打鍵さえすれば、彼にはそこから音が発生するのが見えた。教会跡に旅人が通りすがった、旅人はグランギニョルに声を掛ける。
