雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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LINGO AND APPLE

「はあ。壮君、君もか」
 病床日誌を記していた工藤琳瑚は、サイドテーブルの上にノートと三色ボールペンを置きながら「はあ」と溜息をついてみせた。
 その病室にはベッドが六つあったが、現在の利用者は工藤琳瑚ひとりしかおらず、広い病室は閑散としていた。そして、それだけに工藤琳瑚の周辺が目がいき、そこに幾つもの見舞いの林檎が目立った。笹城壮と署名されたカードと籠いっぱいの林檎を持ち、部屋に入ってきた男子高校生は、そのままの格好で立ち尽くした。
「いくら私が大の林檎好きだからと言って、君まで林檎とはね……誰か意表を突いてくれる奴はいないものかね。……とは言え、君のその気持ちは嬉しい。ありがたく受けとっておくよ」
 呆然としている彼に気を遣ったのか、琳瑚は微笑みながら彼に手を差し伸べた。彼はそれを見て、ようやく動くことができた。
「ええと、飽きてなければむいてあげるけど。食べる?」
「勿論だ。いただこう」
 彼はベッドの脇のパイプ椅子を組み立てると、そこに腰を下ろして持ってきた林檎のひとつをむき始めた。慣れた手つきで果物包丁を使っている彼と琳瑚は、クラスの様子や病院の話など、他愛もない話に耽った。
 やがてノックがひとつ鳴り、病室に新たな見舞い客が現れた。
 やってきたのは上から下まで黒尽くめのファッションで統一している男で、手には林檎を一抱え持っていた。
「やれやれ。君もか」
 工藤琳瑚は入院して以来、何度目かの溜息をついた。


『リンゴ』618文字