雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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ジャン=ジャックの自意識の場合

ジャン=ジャックの自意識の場合ジャン=ジャックの自意識の場合
樺山三英

徳間書店 2007-05
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 ジャン=ジャック・ルソー。かつて彼=わたしが育てたエミールという名の言葉。それは彼=わたしたちの観念のなかに存在する、幻の少年……。果たして彼=わたしとは誰なのか、J・Dとは誰なのか(ジャック・デリダ? サリンジャー?)、アンジェは、巨人は、
塔は、船は、天使は、水は、島は、少女は、少年は、その名は──。
 第8回日本SF新人賞受賞作。id:BaddieBeagleさんの、

地下室の手記』(一人称を“俺”にしている新訳版は自棄感か増していてイケる)や『眼球譚』(こっちは生田耕作のほうがやっぱり秘教的でいい)、そしてセリーヌ、スティーヴ・エリクソン津原泰水(の『ペニス』)、花村萬月(の『鬱』)につらなる自意識のダウンワード・スパイラルな冒険小説としての衒学的モノローグとでも言うべきか。ただ借用されるタームの量とそこから派生する世界の(内向きの)広がりはサーヴィス制神たっぷりで陰鬱ながらも愉しく、そして意外にも読みやすい。“ニューウェーヴ”嗜好向けだとは思うけど、作者が波状言論のアルバイトをやっていた人ってことも書いておけば興味がでる人もいるんじゃないかな。
http://d.hatena.ne.jp/BaddieBeagle/20070518/1179482380

 という紹介を読んで、書店で手にとって立ち読みしたところ一行目から「女の子のおちんちんは、お腹のなかについているの」*1と大上段に振りかざしていたので、読んでみた。
 結論として、確かに衒学的に過ぎるきらいはあったように思う。第2章に入った段階で物語を追うのが煩雑な手段であるように感じられたので、以降は言葉によるイメージの奔流を楽しんだが、読みながら脳裏では文学について考えていた。と言うのも、本書はたとえばフランス文学としてコクトーバタイユの隣に並んでいても、そう不思議ではないように思うのだ。そんな作品が日本SF新人賞を受賞していいのだろうか? いや、確かに扱っているモチーフが幻想幻想してるので文学かSFかと問われれば、それはSFな気がするけれど、しかし、そこでSFという回答が出てきてしまう時点、なんとなく文学は裾野が狭く、逆にSFは懐が深いように感じる。……あ、幻想文学新人賞があればいいのか!

*1:5ページより引用。