本記事は、ゆるいネタバレを含みます。真っ白な気持ちで『惨劇RoopeR』を楽しみたいひとは後ほどお越しください。
では、始めます。
『惨劇RoopeR』というボードゲームがあります。
同人ゲームなのですが、2011年6月にα版が、2011年11月に完成版が都内のゲームマーケットという、ボードゲームオンリーの即売会で頒布されました。
このゲームを秋山が知ったのは完成版がリリースされる直前で「ループ物」という概念を題材としている点に興味を抱いたのですが、ゲームマーケット当日、ブースに向かってみると3000円という価格を見て敬遠してしまいました。その後、購入したうさみさんのを何度かプレイさせて頂きましたが、あまりに面白くて面白くて、もう少しこの面白さを色々なひとに知って貰いたいなあと思ったので、ちょっと書いてみることにしました。
ゲーム概要
『惨劇RoopeR』は4人専用のボードゲームです。
1人が脚本家と呼ばれるゲームマスターのような立ち位置となって、ゲーム毎に惨劇を用意します。残りの3人は主人公と呼ばれる挑戦者のような立ち位置となって、舞台となる都市で惨劇が発生しないよう未然に防ぐことを目的とします。
通常のボードゲームと本作が決定的に異なるのは「ループ」という概念があることです。
一般的な対戦形式のゲームであれば、一方と他方が戦って、一方が1回でも勝利すればそのまま勝敗が決します。しかしながら本作における主人公は「ループ能力」を持っていて、惨劇が発生してしまった場合、ただちにゲームの開始時点まで「時間を巻き戻す」ことが出来るのです!
ゲーム概要、その2
ゲーム自体が手元にないので、申し訳ありませんがコンポーネントの写真は、ありません。
公式サイトに行って頂ければ、ある程度は確認が可能です。
がんばって言葉だけで説明します。
『惨劇RoopeR』における舞台は「都市・学校・神社・病院」という4つのエリアから形成されており、各エリアには「サラリーマン・刑事・情報屋・男子学生・女子学生・お嬢様・巫女・医者・入院患者」という9人のキャラクタが配されています。初期状態において、この9人は全員「パーソン」という、なんの特殊能力も持たない役職についています。
舞台に惨劇をもたらさんとする脚本家は、ゲーム開始前に、計12のルールから3つのルールを選択します。各ルールは「役職にキーパーソン、クロマク、キラーを追加する」だとか「ループ終了時にキーパーソンに暗躍カウンターが2つ以上置かれている場合、主人公は敗北する」だとか書かれています。
脚本家は、このルールを組み合わせることによって、キャラクタたちに「キーパーソン」であるとか「キラー」といった役職を付与させ、惨劇の発生条件を決定していきます。
主人公は、脚本家の選んだルールを見抜き、どのキャラクタが、どの役職についているか突き止め、惨劇の発生条件を食い止めることが目的となります*1。
ゲーム概要、その3
9人のキャラクタは、それぞれ固有の能力を持っています。「自身以外の不安カウンターを取り除く」だとか「同じエリアにいるキャラクターに友好カウンターを置く」などです。
また、各キャラクタには不安臨界という数字が決まっており、その数値以上に不安カウンターを置かれた場合、そのキャラクタは「不安に駆られた」状態となり、場合によっては自殺してしまったり、他のキャラクタを殺してしまったりします。主人公は上手くキャラクタと仲良くなって、その能力を活用しつつ、事件を発生させないように工夫したり、発生させたりします。
概要の説明は以上です。
「ループ」であるが故に、条件が満たされていれば、各キャラクタは毎回必ず同じように事件を犯し、惨劇が発生することになります。しかし逆に言えば、主人公の動きによって、キャラクタが不安にならなければ事件は発生しませんし、条件が満たなければ惨劇は発生しないのです。
複数回のループを経て、ルールを見抜き、惨劇を阻止する!
それが『惨劇RoopeR』というゲームです。
このゲームの魅力
概要説明の時点で、いくつかの魅力を明らかにしましたが、このゲームの魅力を一言で表現するならば「脚本家VS主人公の知的なバトル」でしょうか。
イメージ的にはミステリにおける「読者への挑戦状」に近しいかもしれません。
見事、主人公たちを欺き通すことが出来るのか? それとも脚本家の手の内を読み、惨劇を阻止することが出来るのか? その勝負の行方、および決着に至るプロセスの妙。それこそが『惨劇RoopeR』の魅力です。
このゲームの魅力(主人公視点)
もう少し、このゲームの面白いところを紹介させてください。
主人公視点での面白さと言えば、なんと言っても「推理する楽しさ」でしょう。ゲーム開始時点、1ループ目において、主人公側が持っている情報量はゼロです。誰が事件を起こすのか、どういった惨劇が発生しうるのか、まったく見当がつきません。
しかし、1日が経過し、2日が経過したとき、場の状況は一変しています。
脚本家によってばら撒かれた不安カウンターと暗躍カウンターがキャラクタに乗り、彼らは初期位置から他のエリアへと移動を開始します。場合によっては何らかの事件が発生しているかもしれませんし、あるいは早々に惨劇が発生し、1回目のループが終了を迎えているかもしれません。
何かが起きる。
その背景には「理由」があります。
その「理由」の断片を集め、つなぎ合わせ、やがてそれが一枚の絵になったとき、主人公たちの前に「ルール」が姿を現すのです。
僅かな情報をかき集めながら、複数回のループを経て、論理的な思考の果てに真実に辿り着く。これは他のゲームでは、なかなか味わえない知的興奮ですね。もちろん、無事に惨劇を阻止して大団円を迎えたときの昂揚感も、なかなかのものです。
このゲームの魅力(脚本家視点)
『惨劇RoopeR』の面白さは、やはり脚本家に転じてからでしょう。
脚本家は言わば狂言回しです。すべての情報が手元にあるが故に、それを、どの順番で、どのタイミングで開示すれば面白いかを考えながらゲームを進めていく必要があります。
証拠が不充分で、けして解答に辿り着けない「読者への挑戦状」が退屈であるように、どう足掻いても惨劇を阻止できないゲームが不満しか抱かせないように、脚本家は、細心の注意を払って「フェア」に脚本を構築することが求められるでしょう。
この「フェア」という発想に思い至ったとき、プレイヤは脚本家の面白さを、そしてこの『惨劇RoopeR』というゲームの真髄に気がつくはずです。
完全に論理的に推理し尽くしたら惨劇の阻止は可能である。そんな主人公側にとって有利な脚本を敢えて用意したうえで、だがそれでも勝利する! それこそが脚本家の醍醐味と言えるでしょう。
感想戦も面白い
ゲーム終了後、全情報を開示して主人公と意見交換したり、他の脚本家と自分の作った脚本を自慢する楽しさがあるのも『惨劇RoopeR』の良いところですね。
用意はしていたものの発動できなかった仕掛けの存在を示したり、脚本を作っていたときは予想していなかった主人公勢の卓越した推理を振り返ったり。人狼の勝敗が決した後、人狼と村人が和気あいあいと話しあうときの雰囲気にも似ています。
あ、今、何の気なし「人狼」って書きましたけれど、本質は「人狼」に似てるかもしれませんね。多様な役職の中からゲームマスターが任意の役職を選んで、それを恣意的にプレイヤに配布する。役職の内訳は公開されておらず、村人は、役職の内訳を推理するところから始めなくてはならない、そしてそのうえで人外を、全員、吊らなくてはならない。そんな感じ。
おわりに
と言うわけで、主人公側で2回、脚本家側で3回、計5回『惨劇RoopeR』をプレイして、たいへん面白かったので紹介記事を書いてみました。これを読んでくださった方が少しでもこのゲームに興味を持ってくださって、いずれ一緒にプレイすることができれば嬉しい限りです。
次回は秋山謹製シナリオを紹介する形で、実際のプレイ風景を紹介したいと思います。
*1:例えば女子高生がキーパーソンであることを見抜いた上で、女子高生に暗躍カウンターを置かせない、といった感じ。