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面白いを詰め込んだら面白くなる好例『ゴールデンカムイ』の感想

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 野田サトルによる大人気マンガ『ゴールデンカムイ』を最新刊まで読みました。
 非常に面白かったので感想を書きます。途中からネタバレします。

大人を夢中にさせるマンガ

 すでにマンガが子どもだけのものではなく、大人が読んでも面白いマンガや、大人が読んでこそ面白いマンガがあるというのは、世の中の共通認識になって久しいです。
 本作『ゴールデンカムイ』は、まさに大人が読んで面白いマンガのど真ん中にあり、わたしの感覚では『キングダム』や『宇宙兄弟』に並ぶ傑作です。
 生粋のマンガ好きはもちろん、ふだんマンガはあまり読まない方にも自信をもってオススメしたいですね。

『ゴールデンカムイ』は一言では表現できない変なマンガ

『キングダム』が古代中国の春秋戦国時代を舞台に、主人公が成り上がっていく作品、『宇宙兄弟』がムッタが宇宙飛行士を目指し、その夢を叶えていく作品としたとき、『ゴールデンカムイ』がどういうマンガであるかを、一言であらわすのは難しいです
 アイヌの埋蔵金を獲得して巨万の富を得ようとする話。
 と、シンプルにまとめても構わないのですが、そうなると高い頻度で描かれる北海道の雄大な自然やアイヌ文化、熊をはじめとした動物たちとの争い、そして狩りの成果として得られる食事やアイヌ料理を無視することになってしまいます。
 あまりに要素がてんこ盛りで、コンセプトをひとつに絞りきることができないのです
 コンテンツとしては致命的です。
 ですが、この、とにかく様々な要素が闇鍋のごとく詰め込まれているごった煮感こそが、本作の最大の魅力であるようにも思えるのです。


 創作の観点において、指南のひとつとして言われる言葉に「とにかく作者が面白いと思うことを詰め込め。作者と同じ趣味を持った読者にとって、それがいちばん面白い」というようなものがありますが、まさに、この指南を実践し、体現しているのが『ゴールデンカムイ』ではないでしょうか。
 中盤、主人公たちが謎めいた家に入りこみ、そこで不気味な家主と出会い、数奇にして奇妙な戦いを繰り広げる……という場面がいくつかあるのですが、これが果てしなく『ジョジョ』的なのです。
 最初のうちは「ああ、ジョジョが好きなんだなあ……わたしも好きだよ!」くらいのテンションで読んでいたのですが、そのうちにゴゴゴゴゴと擬音を使いはじめて、


こいつジョジョ好きを隠そうともしていない! 開き直りやがった!


 と思ったりもしました。
 そういったわけで、タイトルにもつけましたが、作者にとっての面白いを詰め込んだ結果、読者にとっても面白くなった成功例であると考えた次第です。

『ゴールデンカムイ』の好きなところ

 ここからは、個人的に好きなところ紹介させてください。
 ひとによってはネタバレに抵触しますので、気になる方はマンガに着手するか、アニメを先に見てください。



 さて、真っ先に挙げておきたいのは杉元佐一とアシリパさんですね。
 杉元佐一はですね、読み手がいちばん感情移入する主人公であると同時に、全登場人物のなかでもいちばん理解できない、不気味な存在ですよね。危険を顧みず死地に突撃し、他の人物が躊躇する場面においても、迷いなく踏み抜いていく。
 勇気があると言えば聞こえがいいですが、個人的には狂気を覚えます。
 しかし、そんな杉元佐一がアシリパさんのことを、終始「アシリパさん」とさん付けで呼んでいるのは、とても好印象です。彼女を相棒として認め、彼女に対して敬意を払っているのが分かります
 いちばん好きなのは、アシリパさんと別行動しているときにも関わらず、杉元佐一が殺人を犯そうとしたとき「見るな!」と叫んだこと。自らは手を汚すところや、ひとが死にゆくところを、アシリパさんに見せたくないという気持ちが出ていて、彼のなかにおけるアシリパさんの存在感が伺えます。
 そして、そんなふうに杉元佐一に想われているアシリパさんの変顔は、いつも好きですね。


それにしても、おおよそヒロインにさせるとは信じたがたいレベルの変顔! それも1度や2度ではなく、もう100回くらい? これだけ変顔を見せられたら好きになってしまうじゃん!


 変顔と表現しましたけれど、これはアシリパさんの素の顔なんでしょうね。
 そういう表情を、杉元佐一に見せる。ある種、アシリパさんなりの感情表現なのかもしれません。
 後は脱獄王の白石、マタギの谷垣とインカラマッ、第七師団の鶴見中尉と元新撰組の土方歳三。魅力的なキャラクターたちは、枚挙にいとまがないですね!
 残念ながら退場したキャラクターたちも多く、ときには主要登場人物であっても死ぬことがある。その事実が、物語に適度な緊迫感を与えています。なんとかアシリパさんには幸せになって貰いたいものです……

終わりに

 物語は最終局面に突入していて、おそらく残り数巻で完結となることでしょう。
 ゴールデンカムイというタイトルの意味も明かされましたし、このロマンあふれる物語が、どこに着地するのか楽しみでなりません。