尾田栄一郎による国民的漫画『ONE PIECE』の最新劇場版『ONE PIECE FILM RED』を見てきました。
ちょうど興行収入が100億円を突破した頃合いだったでしょうか。入場特典は第3弾『コミックス-巻4/4〝UTA〟』でした。
アニメ映画の興行収入に感じる違和感
コロナ禍に入り、よく換気されているはずの映画館に休業要請が出され、新作の封切りが見送られ、そんな中、発表された『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が、鬼滅人気に背中を押されながらも爆発的に興行収入を伸ばしていきました。
300億円を超え、不動の一位と言われていたスタジオジブリの『千と千尋の神隠し』を抜くのでは? というニュースを見たときのことは今でも覚えています。
その後、この話題作を見ないわけにはいかないと一念発起し、『竈門炭治郎 立志編』を予習したうえで『劇場版 無限列車編』に臨みましたが、結論としては……下記の通りです。
『鬼滅の刃』によってアニメ作品が再評価されたのか、アニメ映画を見るために映画館に足を運ぶという文化が形成されたのか、アニメ映画の興行収入がよく話題に上がるように感じます。
『呪術廻戦0』然り、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』然り……。
違和感を覚えるのは、まるで興行収入が作品の面白さ、素晴らしさを客観的に表現する数値のように扱われているように感じているからです。
確かに面白い作品は、その面白さ故に、結果として興行収入が振るうことでしょう。
ジブリ、ディズニー以外で興行収入が振るった新海誠『君の名は。』は、その好例でしょう。
けれど、興行収入は必ずしも作品としての面白さだけに牽引されるものではなく、マーケティングや時の運によるところもおおきいです。
もちろん、これはアニメ映画に限ったことではありません。あらゆる作品、あらゆる商品、あらゆる業界に同じことが言えます。あるいは今、ようやくアニメ映画に、その洗礼がやってきたとも言えます。
ほんとうに面白い映画を仕掛けようという覚悟
『ONE PIECE FILM RED』には強いマーケティングの覚悟を感じました。
連載25周年を迎え、原作が100巻を越え、ついにすべての伏線を回収する最終章に突入したこと。多くのファンを擁する国民的な漫画作品であること。原作者が原作者の尾田栄一郎自身が映画に関わることに積極的で、過去に2度、総合プロデューサーとして参画した実績、経験があること。
環境が整いすぎていると言っても過言ではありません。
監督に谷口悟朗を招き、ウタのキャストとして名塚佳織とAdoが選ばれ、第7弾まで設定された入場者プレゼントに、多くの企業とコラボしたイベントやキャンペーン、さらにはYouTubeで公開された『ウタ日記』等々──。
最高の作品で、最高の興行収入をあげようという関係者が一丸になって邁進する覚悟を感じました。
『ONE PIECE FILM RED』の第一印象
と言うわけで、映画館でリアルタイムに見るしかないと考え、原作を103巻まで読んだうえで近くの劇場に足を運び、少年少女に混ざって見てきました。
見終えた直後の率直な感想としては「正直、違う」でした。
原作はワノ国編が佳境を迎えている頃合いなので、個人的な感情としては四皇カイドウとの決着や「赤髪が導く”終焉”」というキャッチフレーズが、どういう意味を持っているのかが気になっており、つまり『ONE PIECE』というシリーズ作品全体の続きを求めてしまっていました。
また、Adoによる劇中歌が流れるシーンも多く、それほどAdoに思い入れがあるわけではない身としては、劇中歌が流れるたびに「またか」という嘆息がありました。
スクリーンが明るくなり、座席を立ったときに最初に感じたのは「映画と言うより、ライブだったな」でした。
後からジワジワ来る『ONE PIECE FILM RED』の面白味
見終えた直後の感想は低調でしたが、その後、思い返すたびに、随所まで考え抜かれた、まさに最適解だなと感じるようになりました。
原作の時間軸としてはホールケーキアイランド編(82巻~90巻)とワノ国編(90巻~)の間と考えられ時間軸の設定としては絶妙、主役のウタはオリジナルキャラなので長年のファンや最近のファンはもちろん、ファンでない方も区別なく楽しめます。
歌い手やVtuver、アイドル、ネット配信とした要素をテーマとして取り上げており、古くささを廃し、最新の現代的な映画として見ることもできます。
それでいて、世界政府、王下七武海、四皇が支配する大海賊時代を、ルフィを筆頭とする最悪の世代が終わらせようとするという原作ストーリーと重なるところもあり、さらには世界と彼女の二択を突き付けられるセカイ系の流れまで意識されており、実に多様な見方ができます。
特に、単体の映画作品として完成されている点を、素晴らしく感じます。
もちろん連載作品なので海賊や悪魔の実などの基本的な設定は、今さら再説明されませんが、既存ファンを多く持つがゆえに豊富なマーケティング予算を最大限に活用しつつ、原作や先行作品を履修せずとも、完全なる新規でも楽しめる作品に仕上がっていると感じました。
終わりに
感想と言いつつ、ほぼ作品の外側ばかりについて書いてしまいました。
ウタというキャラクター造形は、とても良いなと感じました。表面上の可愛らしさや明るさ、その裏にある根底にはコミュニケーションを避けたいところ、不理解、ディスコミュニケーション性には心を掴まれました。Adoの歌う『新時代』にも象徴されていますね。
その一方で、現実世界とウタワールドという世界が分かたれた環境においても、ルフィとシャンクス、ウソップとヤソップの間に見られた絆にはグッと来ました。
興行収入がすべてではないという上述しておいてなんですが、成功例として何度も取り上げられやすくなるように、少しでも伸びてくれると嬉しいなと思う次第です。