雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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新海誠最新作『すずめの戸締まり』の感想(ネタバレあり)


『君の名は。』、『天気の子』で知られる新海誠監督の最新作『すずめの戸締まり』を見てきました。
 ネタバレ全開ですので、気になる方は回れ右推奨です。

長く追っているクリエイターには重い感情を抱いてしまう

忘れかけていた音楽、
こころ震わせる物語。
これが、RPG。
(『英雄伝説V 海の檻歌』キャッチフレーズ)

 日本ファルコムの『英雄伝説』シリーズと言えば、いまでは『英雄伝説VI 空の軌跡』にはじまる軌跡シリーズのことと言っても違和感がないほど軌跡シリーズは人気を博しましたし、現代日本における代表的なRPGシリーズの一作になりました。
 けれど、わたしにとって『英雄伝説』は、最初に遊んだ『英雄伝説V 海の檻歌』の印象が強く、新海誠が担当した、そのオープニングムービーは、いまでも覚えています
 Wikipedeiaを見ながら思い返しましたが『イースIIエターナル』と『BITTERSWEET FOOLS』も予約して購入しましたし、サイトで公開されていた『彼女と彼女の猫』もテレホーダイの時間に、がんばってダウンロードしました。
 と言うわけで、かれこれ20年以上、氏のコンテンツに触れているわけですが、それだけ長い間、触れつづけていると、さすがに愛着が湧くと言うか、ちょっとふつうではない感情を抱きます。ガンダムファンにおける富野由悠季監督の扱い方に近いかもしれません。

個人的な好みで言えば『天気の子』

 新海誠の代表作と言えば、そのデビュー作である『ほしのこえ』や、出世作となった『秒速5センチメートル』、そして現時点において最大の興行収入を誇る『君の名は。』でしょう。
 けれど、個人的な好みで言えば、圧倒的に『天気の子』であり、次点で『言の葉の庭』です。
『天気の子』が好きな理由は、新海誠の初期作である『ほしのこえ』や『雲のむこう、約束の場所』に見られた、君と僕、そして世界という関係性が再びフューチャーされると同時に、より現代的にブラッシュアップされていたからです
 詳しくは『天気の子』をご覧ください。

『すずめの戸締まり』のコンセプト

 まだ、自分のなかで充分に解釈できていませんし、これから先、多くの議論が行われるでしょうが、平たくまとめると本作は3.11──東日本大震災に対するファンタジー的な救済がテーマと言えます。
 全編にジブリリスペクトが感じられるですとか、すずめの名字が岩戸であり天岩戸を連想させるですとか、『君の名は。』が「とりかへばや物語」であったならば『すずめの戸締まり』は「行きて帰りし物語」なのではないかとか、いろいろ語りようはあると思います。が、最もおおきなテーマは震災に対する救済です。
 ここから言えることは、本作が、従来のアニメ好きや青春テーマ、成長テーマが好きな層をターゲットにした作品ではなく、より一般的な、大衆をターゲットにした作品であるということです
 小説で喩えると『ほしのこえ』というライトノベルでデビューした小説家が、『君の名は。』というエンターテイメント小説でヒットし、しかし『天気の子』で一度はライトノベルに回帰しつつも、『すずめの戸締まり』というエンターテイメントで直木賞を狙ってきた。みたいな感じでしょうか?
『君の名は。』を越えるヒットを予感し、海外を中心に、より世界で受けるテーマ、描き方であると感じました
……まあ、個人的には『天気の子』の方が好みですけれど。

『すずめの戸締まり』に感じた引っ掛かり

 細かい点かもしれませんが、1点だけどうしても気になってしまい、乗り切れませんでした。
 それはループの起点です。
 なにを隠そう、わたしはループものが大好物で、ループものでありさえすれば小説、漫画、映画、ゲームを問わず、すべてに触れています。
 本作にも「すずめの椅子」というループ要素がありました。
 どういうことか見ていきましょう。


(1)岩戸椿芽、すずめ(幼少期)のために椅子を作る。
(2)すずめの椅子、震災で失われる(筆者の想像)。
(3)すずめ(幼少期)、母を探して常世へ。
(4)すずめ(幼少期)、常世ですずめ(現在)から椅子を受け取る。
(5)すずめ(幼少期)、現世に戻り、岩戸環に引き取られる。
(6)宗像草太、すずめの椅子になる。
(7)すずめ、草太を救うために常世に向かい、すずめ(幼少期)に出会う。
(8)すずめ(現在)、すずめ(幼少期)に椅子を渡す。
(9)すずめ(現在)、現世に戻る。


 ご覧の通り、すずめの椅子という存在は(4)~(8)間でループしていると言えます。
 本作の面白いポイントは、宗像草太がダイジンによってすずめの椅子に封じ込められてしまい、要石になってしまうことです。
 宗像草太が要石であり続け、すずめが宗像草太を救うために常世に赴かなければ(8)=(4)が発生せず、結果的に(6)も発生しないことになり、物語がおおきく変わることになります
 物語が映画ような形になるには、すずめの椅子がきちんとループする必要があります。最初に考えたのは「1周目のすずめだけ、未来からやってきたすずめと出会わなかった。もしくは出会ったが椅子を受け取らず、椿芽が作った椅子を持ち続けていた」です。これならばループの起点として問題ありません。
 しかし、これは良しとした場合、ある問題が発生します。それは同じ世界に、椿芽が作ったすずめの椅子と、すずめ(現在)がすずめ(幼少期)に渡した「すずめの椅子」が同時に存在するという問題です。
 この問題を解決するには(筆者の想像)として記述しましたが「(2)すずめの椅子、震災で失われる」が発生しなければならず、結果として「1周目のすずめだけ、未来からやってきたすずめと出会わなかった。もしくは出会ったが椅子を受け取らず、椿芽が作った椅子を持ち続けていた」という状況は発生しえなくなります。
 解決の糸口は、


・岩戸椿芽という存在。
・すずめの椅子の脚が1本、掛けていること。
・ダイジンがすずめに異様に懐いていること。


 あたりにあるのではないかと考えられますが、いずれも想像の範疇を出ません。
 もう少し作中に示唆があると嬉しかったのですが……。
 説得力の強い考察が出てくることを願うばかりです。

終わりに


 長くなりましたが、見ている間は最高に楽しかったですし、見終えた後もしばらく心地よい余韻を感じました。
 多くの方が本作を楽しみ、本作に救われることを願うばかりです