雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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SOMEWHERE OVER THE RAINBOW

「こら! 勝手にシキサイしちゃいけないって、先生、前にも言ったでしょう」
「あははー、ごめんなさーい」
 ぶん、と唸りをあげて迫る先生の腕を避け、天道貴志は階段を駆けのぼった。
 三階分を駆け登ったところで、息が切れた。先生が後を追ってくる様子がなかったので、貴志は階段に腰を下ろして、休むことにした。額の汗を、血管の浮いた腕で拭いながら、息を整える。そして考える。
――どうして、シキサイしたらダメなのだろう。
 シキサイするのはとても楽しい、大人と子供の両方を見ることのできる世界を見る眼を瞑って、子供だけしか見ることのできない世界を見るようなもの。カーテン越しに女の人の着替えを覗くときのように、ちょっとドキドキする。もっともシキサイするのと覗くのとでは、全然違う。覗かれたほうが恥ずかしいのに対し、シキサイされる方は、別段、恥ずかしくともなんともない。それともやはり恥ずかしいのだろうか。
 今度、先生にやってみよう。
 貴志はそんなことを考えながら、立ち上がって屋上に出る。いつの間にか夜の帳が下りていた。随分と長い時間、休憩していたようだ。夜空は星ひとつなく、屋上は暗かった。だから、貴志はシキサイすることにした。
「えいっ!」
 空を虹色の星屑が埋めつくした。


魔法使いの夜537文字