雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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 テレビに映っている洒落小路雪麿は、スポークスマンである。
 世間では、表に出てくるスポークスマンの洒落小路雪麿が、裏に隠れたままの本物の洒落小路雪麿と大親友であり、ふたりして小説のネタを出しあったりして協力しているから、インタビューにも答えられるし、作中では明かされないような設定を知っているのだと理解している。この理解は九割方正しい、一割の過ちとはすなわち、スポークスマンの洒落小路雪麿が、九人の洒落小路雪麿たちの共通の友人だという点である。そう、洒落小路雪麿とは、九人の作家たちによって構成されている、虚構の人物なのである。


 あるとき、洒落小路雪麿たちが一堂に会することがあった。彼らは互いに、それぞれの作品を批評しあい、親交を深めあった。そのとき、ひとりの洒落小路雪麿が「誰が書いたか知らないけど『妖怪狩り』、あれは面白かったよなあ」と言った。直後に他の洒落小路雪麿たちも同意の声を挙げたのだが、「あれは俺が書いたんだ」と名乗りを上げた洒落小路雪麿はいなかった。
 洒落小路雪麿たちが不思議そうにしていると、いつの間に現れていたのだろう、見覚えのない男が手をあげた。するとスポークスマンの洒落小路雪麿がゴホンと咳払いをして「実はこいつがどうしても洒落小路雪麿として書きたいって言うから、つい名前を貸しちゃったんだ」と言った。洒落小路雪麿たちは驚いたが、すぐに彼の筆力を思いだし、彼を仲間として――新しい洒落小路雪麿としてあたたかく迎えいれた。


 テレビに映っている洒落小路雪麿は、スポークスマンでもある。しかし彼の本当の職業は、臨床心理学者で、専門は解離性同一障害――すなわち多重人格である。
 洒落小路雪麿たちは知らない。自分たちが本当はひとりだということに。


『11人いる!』740文字