空から降ってきた一万の爆撃が、夏目草薙から故郷を奪った。
草薙はかつて自身が住んでいた土地の入口に立って、見渡す限りの荒野と、地平線まで見渡せてしまうその事実に失笑した。「まったく、とんだお笑い種だ」肩を竦めてから、草薙は額に巻いていたバンダナをずり下ろした。視界が薄紅色に覆い隠される。
その場で寝転がり、草薙は意識して呼吸を行なうことで、動悸を鎮めることに専念した。
風が吹いた。
「ねえ」
「そこに……誰かいるのか」
草薙はバンダナをずらした。
白髪の交じった赤毛の女――遠目に見ると、薄桃色の髪の毛を持った女が、草薙を見下ろしていた。
「誰?」
「私のこと?」
「他に誰がいる」
「私は魔女」
「魔女? いや、悪いが呼んでない。放っておいてくれ」
「そうした方がいいみたいだね。邪魔をしたね」
去ってゆく女の後姿を見送ることもなく、草薙は持ちあげていたバンダナを元に戻した。
夜になってから、草薙は気がつくことになる。大地に住む人が少なくなったがために、見えるようになった降り注ぐような星空が、自身の頭上をきらめいていることに。