雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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 それは危険な思考。魔法使いの弟子は師匠の持ち物に手を出す。それは分不相応な思考。弟子は持ち主以外にはけして抜けない刀を掲げる。それは力不足な思考。弟子の口から紡がれる震える言霊、揺れる呪文の言葉。それは後戻りの効かない思考。弟子の手にこもる力、姿を現さない刀、反動に震える柄とそれを持つ弟子の手。それは失速してゆく思考。危険であると、分不相応であると、己には力不足であったと、もう後戻りはできないのだと、弟子は気づき慌てふためき、宝刀を手放そうとする。それは思考に非ず。弟子は最後の力を振り絞って手を離しそうになった宝刀を、逆に強く握り締める。それは本能。放たれそうになった力が逆流し、逆流しそうになった力が滞留し、滞留しそうになった力が拡散する。激流であれど清流であれば孤高に流れ進み、濁流であれば巻き込み恐し崩すのが必定。それは気配。弟子は振り向く。それは拍手。弟子の師匠、魔法使いが手を叩いている。そこには笑み。魔法使いは告げる、それが試練であったと、それは与えられた思考であったと、魔法とは思考ではないと。弟子は脱力し、貴重な宝刀をだらりとぶら下げた。それは当然。重力に引っ張られ宝刀の鞘が抜ける。それは瞬間。弟子は魔法使いとなった。


『剣の担い手』522文字