人狼に代表される、自身の正体や役職を隠す系のゲーム、お好きですか?
こんにちは、秋山です、今日は隠匿(いんとく)と隠蔽(いんぺい)について考えてみます。
正体隠匿/隠蔽系ゲームというジャンル
正体隠匿や正体隠蔽と呼ばれるジャンルがボードゲームにはあります。
日本では、一世を風靡した『人狼』(1986年)が有名ですが、ボードゲームの系譜としては『シャドウハンターズ』(2005年)や『キャメロットを覆う影』(2005年)などが古くから知られているかと思います。
特徴としては、プレイヤ間によって勝利条件が異なることが挙げられます。
人狼で説明すると、ゲーム開始時、各プレイヤに役職カードが配られ、その役職プレイヤに従い、各プレイヤは村人陣営と人狼陣営とに分かれて戦うことになります。しかし、役職カードの公開は、ルールで禁じられているので、誰が敵で、誰が味方か分からない状況でゲームを進めることになります。
話術やブラフなど、あらゆるスキルを用いて、真実を見抜く楽しさや、他プレイヤを欺いて自分の役職を隠し通す楽しみなどがあります。
正体隠匿/正体隠蔽という呼称
自身の正体を隠してゲームを遊ぶから正体隠匿、もしくは正体隠蔽。
秋山が日本でボードゲームを真剣に遊び始めたのは2010年頃ですが、当初は「正体隠蔽」という表現が多かったように記憶しています。人間、最初に覚えた言葉を使いがちですが、いつしか「自分は正体隠蔽と言っているけれど、周りは正体隠匿と言うことの方が多いなあ……」と思い始めていました。
試しにグーグルで検索してみました。
まずは「正体隠匿」から。検索結果は、約137,000件でした。
次に「正体隠蔽」を、こちらはGoogleからの提案で正体隠匿も含めた検索結果が表示され、約1,130,000件。「正体隠匿」をはるかに上回っています。
ただ、正体隠蔽に関しては、ニュースサイトの正体隠蔽など、ボードゲームに関係しない記事も多く、少し精度に欠けるなと感じられます。
そこで「正体隠匿 ボードゲーム」で検索してみます。こちらは約69,300件でした。
同じように「正体隠蔽 ボードゲーム」でも検索してみます。先ほどと同じく、Googleからの提案で正体隠匿も含めた結果が表示され約81,000件。
これだと比較にならないので「正体隠蔽 ボードゲーム のみで検索」をクリックしてみます。
そうしたところ、検索結果は約63,400件。比較してみると「正体隠蔽 ボードゲーム」より「正体隠匿 ボードゲーム」の方が、約6,000ほど多いですが、そんなに大きな違いがあるわけではありません。
Twitterでのアンケート結果
Googleによる検索結果だけでなく、秋山の周辺にいる方々は、どのように捉えているのだろうと思い、Twitterのアンケート機能を用いて聞いてみました。
前々から、どちらが正しいのか気になっていたのですが、人狼に代表される自身の正体や隠すようなゲーム、なんて呼んでます?
— 秋山真琴@ミスボド×n'Same 1/25 (@unjyoukairou) 2019年1月17日
結果はご覧の通り、250名の方にご協力いただき、88%が正体隠匿、10%が正体隠蔽、2%が正体秘匿などのその他という結果になりました。
圧倒的に、正体隠匿です。
漠然と「隠蔽よりも、隠匿という表現を用いてる方が多いなあ」と感じていましたが、ここまで差があるとは思っていなかったので、やや驚きではあります。
そもそも、字義的な意味合い
そもそも「隠匿」と「隠蔽」とは、なんなのでしょうか?
辞書を引いてみましょう。
Weblioを使って、三省堂 大辞林を引いてみました。
いん とく [0] 【隠匿】
https://www.weblio.jp/content/%E9%9A%A0%E5%8C%BF
( 名 ) スル
① 隠してはいけないものを包み隠すこと。また、かくまうこと。 「 -物資」 「犯人を-する」
② 隠れた悪事。心中にもっている罪悪。 → 隠蔽(補説欄)
いん ぺい [0] 【隠蔽・陰蔽】
https://www.weblio.jp/content/%E9%9A%A0%E8%94%BD
( 名 ) スル
ある物を他の物で覆い隠すこと。見られては都合の悪い物事を隠すこと。 「陣地を-する」 「事実を-する」 〔類義の語に「隠匿」があるが、「隠匿」は隠してはいけないものをひそかに隠す意を表す。それに対して「隠蔽」は都合の悪い物事を故意に隠す意を表す〕
ほぼ、同じような意味合いではありますが、「隠蔽」の方に、「隠匿」との違いが明記されていました。
隠してはいけないものを隠すのが「隠匿」で、都合の悪い物事を故意に隠すのが「隠蔽」とあります。つまり、字義的に考えると、人狼や村人などの役職カードは、ルールで隠すことを指示されているので「隠してはいけないもの」とは言えず、むしろ他プレイヤに正体が知られるとまずいことになる、という観点から「都合の悪い物事」と言えるので、隠匿より隠蔽の方が、ふさわしいような気もします。
先に使われた始めたのは、どちら?
再び、Googleに戻って、今度は期間指定機能を用いて、先に使われたのは、どちらの用語なのかを調べてみます。
まずは、2000年1月から1年ずつ「正体隠匿 ボードゲーム」で検索してみます。結果、いちばん最初に見つかったのは、CUBEのウサギさんの2009年1月5日のブログ記事でした。
秘密裏に選ばれたキャラクターになってハンター対シャドウ対ニュートラルの戦いをする正体隠匿ゲーム。
http://b-cube.jugem.jp/?eid=41
『シャドウハンターズ』のプレイ記事ですが、見間違いなく「正体隠匿ゲーム」と書かれています。
この他にも、2009年3月15日の日付で『ヴィネータ』のプレイ記事に対して、
【アンダーカバー】や【ドルンタードリューバー】のように、自分の色がばれない様にさりげなく場を自分の有利な方向へと導いていくゲーム。
http://fukuchigames.blog43.fc2.com/blog-date-200903.html
自分の担当する島が沈まずに最後まで残るとボーナス、さらにそこに自分の家が残っているとまたボーナスという私の大好きな正体隠匿系です。
というブログも見つけ、この時期に「正体隠匿」という言葉が使われ始めたのかなという印象を抱きます。
続きまして、同じように「正体隠蔽 ボードゲーム」でも検索してみます。
こちらも2000年1月から1年ずつ、ちまちまと検索したのですが、最初に出てきたのは、TGIW小野さんの『悪魔城への馬車行』のプレイ記事。
プレイヤーは10人のキャラクターと紋章を取る。紋章は2種類あり、どれが誰か分からない。いちはやく自分と同じ紋章をもっているプレイヤーを探し出すことが目標だ。『バン!』や『シャドウハンターズ』のような正体隠蔽ゲームである。
https://www.tgiw.info/report/spiel2006-2.html
ブログではないので、更新時期は不明ですが、Googleの検索画面には「2006/03/01」と出てきたので、その頃にアップされたものと察せられます。
その次は、どうだろうと調べ続けると、ぐっと時間が過ぎて、次はgioco del mondoさんの『薔薇の名前』のプレイ記事です、こちらはGoogleの検索画面に「2009/02/21」とありました。
一言でいうと、正体隠蔽の佳作アンダーカバーをややこしくしたゲーム。
http://gioco.sytes.net/il_nome_della_rosa.htm
ブログという観点では、2009年7月11日という日付が残っている秋田ボードゲーム倶楽部さん。こちらは『インコグニト』のプレイ記事です。
正体隠蔽系のチーム戦という特殊なゲームなため、ソロプレイは無理。
http://akitaken.dip.jp/abc/log/eid28.html
だからルールをほとんど忘れてますw
ここまでをまとめると、正体隠匿、正体隠蔽、どちらの用語が使われた始めたのも2009年頃ではないか? という推察が立ちます。
ただ、この時期は、秋山の体感では、ちょうどmixiからTwitterやブログに流入が始まった時期でもあるので、単に2008年以前は観測できないだけでは? という気もしています。
メーカーの主張
ここで、一度、落ち着いてみて、メーカーはどのように考えているのだろうかを調べてみることにします。
今でこそ、人狼系のゲームは山ほどリリースされていますが、秋山の知る限り、そのはじまりは『タブラの狼』で、その後『ミラーズホロウの人狼』、『究極の人狼』と、様々なセットが発売されていったと記憶しています。
そこで、それぞれのAmazonのページを確認してみたのですが、なんと「正体隠匿」とも「正体隠蔽」とも記載がありません。
いったい、これらの表現は、どこから生まれたのでしょうか……?
終わりに
と言うわけで、調査したのは、ここまでです。
「正体隠匿」や「正体隠蔽」といった言葉は、いったいどこから生まれたのでしょうか。
最後に。これは、秋山の感覚ですが「正体隠匿」という表現の方が「正体隠蔽」よりも一般的な理由は、以下の2案が考えられます。
ひとつめは、言葉が持つイメージです。なんとなくですが「隠蔽」という言葉は「隠蔽工作」という用語を連想され、マイナスのイメージです。ゲームに対して、マイナスのイメージが付与することを避け「隠匿」という表現を選んだ説。
もうひとつは、あるタイミングで、あるゲームが「正体隠匿」という表現を用い、そのゲームから遊び始めたプレイヤを中心に「正体隠匿」という表現が広まった説。
結論は出ませんが、詳しい方は、是非、お教えいただければ幸いです。よろしくお願いします。