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本『小説家になって億を稼ごう』の感想

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 松岡圭祐の『小説家になって億を稼ごう』を読みました。
 普段、こういう本は、あまり手に取らないのですが、小説を書いている知人がTwitterで感銘を受けたと発言していたので興味を持って購入しました。賛否両論を呼びそうな内容ですが、共感を覚えた箇所が多かったので紹介させてください。

概要

いま稼げる仕事はユーチューバー? 投資家? いや「小説家」をお忘れでは? ミリオンセラー・シリーズを多数持つ「年収億超え」作家が、デビュー作の売り込み方法から高額印税収入を得る秘訣まで奥の手を本気で公開。私小説でもライトノベルでも、全ジャンルに適用可能な、「富豪専業作家になれる方程式」とは? ここまで書いていいのか心配になるほどノウハウ満載、前代未聞、業界震撼、同業者驚愕の指南書!

https://www.shinchosha.co.jp/book/610899/

 広義の小説の書き方系の本と言えます
 ただ、主軸は稼げる小説家になる方法なので、小説家という職業に対して高尚な芸術家として捉えている方は、眉をひそめるかもしれません。冒頭に賛否両論と書いたのは、このためです。
 著者の松岡圭祐氏は『万能鑑定士Q』シリーズや『千里眼』シリーズで知られており、ベストセラー作家と言えます。本書にもエビデンスとして年収1億1121万円と書かれた確定申告書の画像が掲載されており、タイトル通り億を稼いだことが分かります。
 ちなみに私は『千里眼』シリーズの1作目だけ読んだことがあります。

小説家になって億を稼ごう(新潮新書)

小説家になって億を稼ごう(新潮新書)

  • 作者:松岡圭祐
  • 発売日: 2021/03/17
  • メディア: Kindle版

小説家という職業に希望を覚える

 最初、タイトルを見た瞬間に疑いを覚えました。
 出版不況と言われる現代。小説家という職業で1億円を稼げるビジョンは、まったく見い出せません。どういうカラクリがあるのだろうか? というのが第1印象でした
 これは読み始めて、すぐに納得に変わりました。

 書店をめぐってみましょう。「◯百万部突破!」という帯のなんと多いことか。売上上位の小説家は億単位の年収を稼ぎます。氷山の一角と囁かれますが、それはどの業種でも同じではないでしょうか。現実に小説家の富豪は大勢います。

 なるほど、確かに1冊500円の文庫本で印税10%と仮定しても、200万部刷られた瞬間に単純計算で1億円になります。半分の100万部でも、5000万円。一般的なサラリーマンからすれば夢のような数字ですし、YouTuberがこの域に達するには、かなりの努力が求められることでしょう。
 こんな10秒で分かることを、今まで考えていなかった自分に驚きを覚えました。

「小説家は儲からない」という風説ばかりが広まると、せっかくの才能ある人々が小説家になるのを断念してしまいます。それは文学全般をつまらなくし、出版不況に拍車をかけてしまいます。

 ここまでは「はじめに」に書かれている内容です。
 さすがベストセラー作家です。冒頭の数ページを読むだけで、もう何度も納得し、襟を正して読もうという気持ちになってしまいました。

小説家という職業を考える

 子どもの頃は、私も小説家は漫画家と同じように夢を売る仕事だと考えており、ばくぜんと高等遊民のような存在と捉えていました。

「儲けばかりを考えるのか」「作家はストイックであるべきだ」との異論が上がります。もちろん小説家は、自作の執筆においてストイックであるべきです。本業を他に持ち、小説で稼ぐことなど考えず、趣味がてら好きなものを執筆していくのも、賞賛に値する生き方のひとつです。

貴方は小説家であり、小説を生業とします。商売には、売るべき商品を持つ必要があります。

貴方は芸術作品を作ると同時に、商品を製造しているのです。粗悪品を作ったのでは商取引が難しくなります。

 この本を読んでいると、小説家という職業が、社員1人だけの製造業であるかのように見えてきます。実際、個人事業主としての申請の仕方や、印鑑、銀行口座の作り方まで言及しています。
 上述の通り、小説家は夢を売る仕事だと考えていて、お金を稼ぐことはおろか、お金の話をすることすら嫌悪感を覚える方からすると、本書は俗物の極みでしょうが、私は非常に共感しました。そして、この生き方にある種の憧れを抱きました。

 まず商業的に稼げる小説を書いて専業作家となり、一方で自分の好きな小説も書いてみてはどうでしょう。作家として出版社からの信用を獲得すれば、あらゆるジャンルの小説を刊行できるようになります。「軽薄な商業作家として名を売ったのでは、本気で書いた小説の発表に支障がある」というのなら、別のペンネームで刊行すればいいのです。

 まったく道理です。

ハウツー本としての本書

 ここまでに紹介したのは、小説家という生き方や捉え方に関してです。
 本書では、実際に1億円プレイヤーになるために、どこをターゲティングするのか、物語作りの秘訣、文体を洗練させる方法、編集者との付き合い方、小説家になった後の振る舞い方、等々かなり具体的に書かれています
 正直、後半は社会人としての心得みたいなものばかりなのですが、小説家を目指している若者の中には社会人経験がない、もしくは希薄な層もいるでしょうから、有用かもしれません。
 物語作りの秘訣に関しては、想像力を鍛えることについて、かなりの紙幅が割かれていました。方法論自体は私には合わないような気がしたので、眉につばをつけて読みましたが、その意図は理解できますし、真理だなと感じました。
 また、最後の言葉も胸に響きました。

 どんなに豊かになり、物質的に恵まれても、貴方の空想はやむはずがありません。もはや貴方は無限のエネルギーをもとに、不滅の製品を作りだす専門職に就いたのです。この職業に定年はありません。やり甲斐があって一生続けられる仕事は、永遠の楽しみと同義です。
 このことを忘れないようにしてください。これは貴方の未来の姿です。

 至言ですね。感謝の気持ちを込めて本を閉じました。

終わりに

 得るところの多い本でした。
 ひとによってはドライに感じることでしょう。でも、私はフラットだなと感じました。小説を商売ではなく芸術と考えているひとに対するリスペクトの気持ちも忘れず、とても丁寧に書かれた本だと感じました。別に、どちらが正しいということもないので。本書が、求めている方の手元に辿り着けばいいなと思います。