2020年7月10日0時0分。
その時間に始まるはずだった『盗めるアート展』について、見た内容や感想を思いつくままに述べていきます。
盗めるアート展とは
盗めるアート展(Stealable Art Exhibition) をSame ギャラリーにて開催します。本展は、国内外で活躍するアーティストの作品で構成される、盗めるアート展です。会期中、会場にはセキュリティを置かず、24時間無人営業し、アーティストの作品は、来場者が自由に持って帰って (盗んで)よいものとして展示されます。盗んでよいものとして作品が展示される時、アーティストはどのような作品を展示するのか?鑑賞者と作品の関係性はどうなるのか? 芸術作品に常にまとわりつく、ギャラリーや美術館という守られた展示空間との既存の関係性が壊された空間で、現代における芸術作品のあり様を違った角度から捉え直す機会となったら幸いです。 アートに興味のある方々だけでなく、家の壁が寂しいから何か飾りたい方、絵画泥棒をやって見たかったけどできなかった方、そんな方々のご来場をお待ちしております。
https://samegallery.com/S_A_E
私が、この展示会を知ったのは6月中旬のことです。
最初に脳裏に思い浮かんだのは参加型美術館という言葉でした。観客が泥棒という形で展示会という空間に取り込まれるのを面白いなと感じました。
入場料が無料であることから、第1回『ゲームなのか?展』の混雑を思い出し、RTはしないことにしました。ひとが押し寄せてしまうと、盗めるものも盗めなくなってしまいますからね。
会場が自宅から徒歩1時間以内だったので、夜の散歩をかねて盗んだものを持ち帰ることができるな、ですとかいざとなればタクシーで帰ればよいか、とも考えていました。
当日の出来事
当日は21時半に会場に到着しました。会場前には10名ほどの人影がありました。
既にオープニングレセプションは終了しており、会場内は外から眺めることのみ可能でした。落ち着いて作品を鑑賞できるのは、今だけだろうなと感じつつ、外から立入禁止テープ越しに鑑賞させていただきました。
覗きに来た方が車道に出てしまわないよう、スタッフと思しき方が案内をしており、その方から記念としてステッカーをいただきました。それぞれに「あの作品が良い」ですとか「あれ盗みたい」などと和気あいあいとして雰囲気があり良かったです。
近くのバーミヤンで休憩し、23時30分に会場に戻ろうとしたら、もう付近は大混雑でした。会場のsameギャラリーの前から左右、そして向かいの道にまで、ひとが溢れかえっていました。
近くにいた方に「並んでますか?」と訪ねたところ「一応。でも、列はあってないようなものですよ」と言われました。
写真では分かりにくいかもしれませんが、21時半の時点でついていたライトは消えていて、会場内は真っ暗でした。
もう諦めて帰るか、それとも一目だけでも様子を目撃してから帰るか悩んでいるうちに、突然、会場の明かりがつきました。23時35分くらいでしょうか。すると、会場の近くにいた方々が会場に雪崩込んでいきました。
時を追うごとに混雑は増していくばかり、通報されるのも時間の問題……と感じていたので、てっきり主催者の判断で、早めに開始したのだと感じました。押されるがままに会場に近づいていきました。
会場の入り口に辿り着いたところで会場内がいっぱいになったのか進めなくなり、それどころか出てくるひとに押されて倒れそうになりました。
その後、ひときわ大きな絵画を盗み出した方とすれ違うように会場に入ることができたのですが、もう展示されている作品は皆無でした。そう、23時38分にはすべて盗み尽くされたのです。
残念な気持ちになりつつ会場を出ると、警察の姿が見えたので、少し離れた場所に移動しました。周囲には、続々と駆け付けてくる警察官に、盗むのに成功したひと、そして彼らをインタビューしているメディアの方や、0時0分開始だと思ってやってきた方などがごった返しになっていました。
これ以上、ここにいても仕方がないなと、23時45分には後にしました。
アートの敗北
帰り道、ぺこらさんとふたりで、残念だったねと語り合いました。
この展示会を知ってから3週間ほど、この日が訪れることを楽しみにしていて、どの作品をどう盗もうか計画を立て、家のどこに絵画を飾ろうか悩み、大きな絵画も入れられる大きなバッグも準備し、支払える仕組みがあったときように盗ませていただくお金も用意していたのですが……歯に衣を着せずに言うと、ハロウィンに渋谷で盛り上がるような若者によって、めちゃくちゃに破壊されたような印象を受けました。
会場の右奥には、パッチワークのような作品が展示されていました。
作品には切り取り線があり、近くにはハサミが用意されており、おそらく自分が欲しい箇所だけをハサミで切り取ってほしい、というデザインだったのでしょう。
残念ながらハサミは蹴り飛ばされ、ずいぶん離れた場所に移動しており、作品はシンプルに盗まれた様子です。
会場の右手には、日めくりカレンダーのような作品が展示されていました。
おそらく365枚の紙が束ねられており、1枚ずつ破いていけば、365人が1枚ずつ持ち帰ることができる、というデザインだったのでしょう。
察するに、その場で破られることはなく、ごっそり盗まれたのでしょう。
入場を人数に応じて制限して、警備員を何人も置いて、その監視をかいくぐって盗みを働く、だったらきっと面白かったでしょうね。
ゲーム感覚になるかもしれませんが、作品を鑑賞する時間も生まれたでしょうし、複数人で協力して、大きな作品を盗むという面白味が生まれたでしょう。
警備員には行動パターンがあり、その情報を共有すれば盗む方法が判明したり、会期が終わりに近づくと、じょじょに警備員の人数自体が減ったりもします。当然、盗みやすくなります。
そして、その様子をすべて監視カメラで撮影し、Youtubeで生放送すれば、観客=泥棒による盗みそれ自体が作品となり、その監視カメラの映像を以って『盗めるアート展』という作品が完成したことでしょう。
少なくとも、こんな状況を見たかったわけではありません。
メルカリ #盗めるアート展 pic.twitter.com/3x44souXQM
— 秋山真琴 AKIYAMA Makoto (@unjyoukairou) 2020年7月9日
レセプションパーティでの様子
最後に、レセプションパーティに参加したぺこらさんが撮影してくださった写真を紹介させてください。
今はもう失われた、散逸した作品に想いを馳せます。
展示作品の写真は、長くなりますのでnoteに転記しました。個々の作品を鑑賞したい方は、下記からどうぞ。
終わりに
勝手な言い分かもしれませんが、そして難しいかもしれませんが、是非、様々な対策を講じたうえで、第2回を企画し、開催していただきたいですね。
このまま終わらせてしまい、この結末も含めてアート、なんて言われてしまったら、なんだか負けが確定してしまうような気がするので。